「現場からは『即戦力の若手エンジニアを入れてくれ』と言われるんですけど、うちみたいな中小企業だと、そんなぜいたくは言っていられなくて…」
システム開発会社で人事を担当している横尾甲子さん(仮名・43歳)は、中途採用の求人広告を出す際に頭を悩ませている。
近年、IT業界は慢性的なエンジニア不足。超売り手市場で、即戦力の若手エンジニアは、知名度のある大手企業や高収入の会社に流れてしまいがちだ。そのいずれでもない横尾さんの会社は、常に中途採用に苦戦している。
「以前、求人広告を出したとき、広告代理店の営業担当の反対を押し切って、即戦力の若手エンジニアをターゲットにしたことがあるんです。すると、驚くほど反応がなくて1人も採用できませんでした」
その際、社長から『今回は仕方ないけど、次は頼むぞ』とプレッシャーをかけられた横尾さん。現場からも、「早く新しいエンジニアを入れてくれ」とせっつかれ、困り果ててしまったという。
「広告代理店の営業担当に相談すると、『ターゲットの年齢層を広げる、もしくは未経験採用に切り替えましょう』とアドバイスされました。経験と年齢のどちらを妥協するか、社内で協議した結果、現場から『新人を育てている余裕などない』と言われ、年齢を妥協することに。『エンジニア経験10年以上の方も大歓迎!』といった文言を盛り込み、再度求人広告を出しました。すると、応募数自体はあいかわらず少なかったものの、30代半ばの経験者を採用できたんです」
ようやくミッションを達成することができ、ホッと胸をなで下ろした横尾さんだったが、1カ月もしないうちに地獄に突き落とされてしまった。
「採用した方は10年以上のキャリアがあり、当社にとって申し分ない人材だったのは確かです。ただ、自分のやり方に固執するタイプで、『前の会社ではこうだったのに…』と不満をもらしてばかりだったようで。配属先のチームの雰囲気が悪くなり、結局その方は居づらくなって辞めてしまったんです」
再度、同じ方向性の求人広告でリベンジすることも考えた横尾さんだったが、社内のエンジニアの平均年齢が上がってきていることもあって、「未経験者採用に振り切り、会社の未来のコアメンバーを育成しましょう」と社長に直談判。外部の研修機関と提携し、未経験者の受け入れ体制も整えた。
「未経験からIT業界で活躍したいというニーズは一定数あるようで、20代前半の第二新卒層からそこそこ反響がありました。そして、最終的に2名の新人を受け入れることが決まったんです」
前回のようなことがあったので、新人に過度な期待はしないようにしていた横尾さん。ドキドキしながら入社後の様子をうかがっていたところ、研修期間中に1人が脱落してしまったとか。
「必死で引き止めたのですが、『自分には無理そうだと感じた』の一点張りで…。『1カ月プログラミングに触れただけで、何が分かるんだ!』と怒鳴りつけたくなりました」