人手不足、人口減少、高齢化が進み、企業における「人」に関する問題は、管理職、経営者の悩みの種となっています。そうした中でも、課題に真正面から取り組み、成果を上げている企業もあります。この連載では、筆者が実際にコンサルティングや研修で関わる企業で行われているマネジメント、採用活動の現場事例を紹介し、課題解決のヒントをお届けします。
半数近くが3年以内に退職
春に採用した新卒社員やパート、アルバイトスタッフが、1年たたずに辞めてしまい、常に人員不足の状況が続いている…
これは、研修や講演に参加する経営者や管理職の方々からお聞きする共通の悩みです。厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の調査によれば、新規大卒就職者の34.9%、高卒者の38.4%が、入社3年までに辞めていて、離職率はここ数年伸長しています。事業規模が30〜99人の企業に絞れば、高卒45.3%、大卒42.4%と、半数近くが3年以内に退職しています。
コストを掛けて採用し、教育をした人材が、短期間で辞めてしまうとなると、大きな損失です。現場は、採用、教育、離職が繰り返されると「この状況がいつまで続くのだろうか…」と思い、疲弊してしまいます。
人が辞めない信金の取り組み
とくに、若手人材の離職率が高いとされている金融業界のなかで、「人が辞めない」信用金庫があります。東北エリアを基盤としているこの信用金庫では、ここ数年の新卒入社のスタッフの離職はほぼありません(昨年の離職者は0人)。以前は、他の金融機関と同様に、若手が定着せず、それが人事部の悩みの種となっていました。
この企業の離職を止めた鍵は、経営幹部のコミュニケーションの在り方が変わったことです。この信金は、東日本大震災の影響もあり、中堅の層の職員が少なく、職員の年齢構成が少しいびつとなっています。そうすると、上司、部下の年齢差があるので、コミュニケーションが取りづらくなり、風通しのよくない職場になりがちです。しかしながら、現状は逆で、上下の人間関係もとてもよい状態を保てています。
ポイントは、組織のトップである理事長が自ら若手職員の輪の中に入り、コミュニケーションを取っていることです。昼食の時間には、本店の社員食堂で、職員たちと会話をしながら食事をするというのが日課になっています。そうすることで、理事長が全ての職員の状況を把握できるようになっています。トップの行動に影響され、中間管理職も同様に、若手とコミュニケーションを持つ機会を積極的に作っています。結果、各自の考えや状況を上司が把握できるので、マネジメントがうまく機能しています。
●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
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