親にとって、子供が風邪をひいたり、インフルエンザに感染したり、遊んでいて骨折したりすることは想定内だろう。だが、不登校になることはあまり想像できないかもしれない。
不登校になった息子
38歳の雄太は大手電機関連企業の子会社で、ITソリューション部門に勤務している。順調に人生を歩んできたが、8歳の息子の不登校をきっかけに一変した。想定外の出来事に、妻は強いストレスを感じ、パートの仕事を休みがちになった。
雄太が家に帰ると、妻とは息子の不登校の話ばかりで精神的に疲れ、あまり眠れず、翌日はきまって職場でミスをした。精神科を受診するとうつ病と診断され、医師に「しばらく休職するように」と言われた。雄太は休職期間中に息子の不登校をなんとかしようとしたが、うまくいかなかった。彼は妻に「お前のせいだ!」などと大声で怒鳴るようになった。その後、精神的に耐えられなくなり、家を出て実家に戻った。それから2カ月後、会社に退職届を出した。
スマホ依存の母親
子供の不登校には前兆がある。例えば、いつもより情緒不安定になったり、怒鳴ったりするようになるのだ。子供の様子を見ていれば異変に気づくはずだが、母親はスマホ依存で、まったく気づかなかった。近年、子供がSNSやゲームに依存してしまうことが問題視されているが、親にも同じことが指摘されている。親がスマホに夢中になるあまり、子供を放置したり、無視したりしてしまう「スマホ・ネグレクト(育児放棄)」である。
母親は寝ているとき以外、スマホが手離せなかった。依存症で脳に快感物質が出ているためにスマホの操作をやめられないが、本人にそうした認識はなく、自分では育児をしているつもりになっていた。こうした母親に育てられた子供は「愛されている」という感覚が持てず、情緒不安定になりがちだ。また、衝動制御をうまくコントロールできず、感情的になりやすい。母親に無視され続けている心理的な影響は計り知れない。
心理的な父親不在
雄太は休日に家族を車に乗せて、遊園地や動物園などに出かけていた。だが、出かけた先で子供と一緒に遊ぶことはなかった。子供にとって心理的には、父親不在の状態だった。
父親の不在は、子供の社会性に影響するとされている。感情の制御機能がうまくできず、感情的になりやすくなる。だから、友達といい関係を作れず、孤立しやすくなる。また、ストレス耐性能力が育たず、不安感を持ちやすい。そして向上心が持てず、無気力にもなりやすい。心理的な父親不在の影響は、とても大きい。
コネチカット大学のロナルド・ローナーらの研究によれば、父親から愛されていないと感じる子供は不安感を持ちやすく、攻撃性をうまく制御できないという。また、スウェーデンのリック・ナワート教授は、父親と定期的に触れ合うことが、子供の認知能力の発達強化につながると指摘している。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。