ティーチングは縦の関係、コーチングは横の関係
コーチングも企業内では、それなりに浸透してきているので、詳しい人も多いと思われますが、ここで少しだけ復習的にコーチングについて整理しておきましょう。
コーチの語源は、「馬車(Coach)」から来ていると言われています。馬車に人を乗せて、目的地までお連れする…、つまり、大切な人をその人が望むところまで送り届けるというイメージでしょうか。
ティーチングは、上司が部下の上に位置していて、上司から下にいる部下に対して、答え・知識・アドバイスを与えるという縦の関係です。一方、コーチングは、上司は部下の隣にいて、上司から部下に質問し、部下がそれに対して自ら答えを出していくという横の関係になります。だからこそ、部下は自発性・モチベーション・考える力をアップしていけるのです。
例えば、訪問先から渋い顔で帰ってきた営業マンが、「あまりよい反応ではありませんでした…」と上司に報告したとします。
それに対して、「もっとやる気を出して営業しなきゃ、数字なんて上がらないだろ!」、「その自信のなさが相手に伝わるんだよ。もっと胸を張って客に話をしなきゃ!」、「とにかく足で数を稼げよ。営業なんて100件訪問して、1件受注すればいいんだから」など、部下の話も聞かずに一方的に自分勝手なアドバイスをされたら、あなたなら、どう感じるでしょうか?
このような上司のもとでは売上が伸びる可能性は感じられませんよね。
こんな場合は、まずは何を置いても部下の話を聞くことです。
「今日は、そもそもどんな話をするつもりだったのかな?」とか、「もう一度同じような場面になったとして、その場合はどんなアプローチをすればいいと思う?」とか、「今日のこちらの準備で一番欠けていたものは、何だったんだろうね?」とか、「今日のアプローチ以外に、他にどんなアプローチが考えられる?」など、いろんな角度から質問することで、部下は、今日あったことを振り返りながら、今後の望ましい行動を自ら具体的に考え、自分自身で考えたことを言語化していきます。ここに大きな学びがあるわけです。

そして最後に、「今日のアプローチの中でも、よかったと思えることもあったはずだけど、それは何?」と、ポジティブな思考への誘導をし、本人の自信につなげる言葉掛けをすれば、相手もやる気を上げた状態で、次のアクションへとつなげることができます。
この例え話の中でも、上司は部下に対して「聞くこと」しかしていないことが分かると思います。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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