「任せるマネジメント」のポイントは我慢
前回までのコラムで、「部下の成長段階に応じた育成のステップ」における育成の第1段階「教えるマネジメント」、第2段階「引き出すマネジメント」について説明してきました。今回は第3段階である「任せるマネジメント」です(図3)。

図3を見ていただければ分かるように、縦軸の「上司はとても安心している」と横軸の「部下もかなり自信がある」という右上の領域になります。左下の領域から比例して右上に進んできたわけです。
ここはマネジメントの最終形とも呼べる段階で、目的や背景をしっかり伝えた上で、自由と責任を与えるマネジメントの理想の状態とも言えます。
ただ、管理職の方の中には、「任せる」ことが苦手な人が、実は少なくありません。部下に仕事を任せるよりも、つい自分がやってしまうのです。
なので、任せるマネジメントのポイントは、「我慢」になります。つまり、自分がやってしまいそうなところを、ぐっと「我慢」して部下に仕事を任せるから、部下は成長してくれるのです。
任せることが苦手な人は、「もう少しできるようになってから任せようと思っています」という言い訳をすることが多いのですが、実際に人の育成というものは、「できるようになってから任せるのではなく、任せるからできるようになる」のです。
例えば、4、5歳の子供というのは、何でも自分でやりたがる傾向にあります。 そんな幼児が、牛乳パックからコップに、おぼつかない手つきでミルクを注ごうとしている姿を想像してください。ミルクが勢いよく注ぎ口から出てきたときに、あなただったらどうしますか?
「ああ、こぼれそう! やってあげるよ」と、親が牛乳パックを子から奪って、コップに注いであげたとしましょう。ミルクはコップからあふれることはありませんでしたから、無事に注げたことになります。親としては一安心かもしれません。
しかし、これは子供が「どの程度の角度と速さで牛乳パックを傾ければ、どのくらいの勢いでミルクが飛び出してくるのか、その結果、どのくらいミルクの量がコップに収まるのか、また、あふれてこぼれるのか」を体で覚える機会を奪っているのに他ならないのです。子供は体で覚えない限り、上手にできるようにはなりません。
子供を部下に、親を上司に置き換えてみれば、「本来部下がやるべき仕事を、上司がやってしまうのは、部下の成長の機会を奪っているのに等しい」ということになります。
だから「我慢」が必要なのです。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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