権限委譲が個人も組織も成長させる
話は変わりますが、旧約聖書の中に、こんな一節があります。
『モーセよ、お前のしていることには無理がある。お前も民も、きっと疲労困憊(こんぱい)してしまうだろう。争いごとが重すぎて、お前一人でそれを片付けることができないからだ。お前は、すべての民の中から、有能で信頼すべき人たちを選び出し、それらの人たちを千人の頭、百人の頭、五十人の頭、十人の頭として彼らの上に置くがよい。彼らがいつもこの民を裁くようにし、大きな争いごとのときはみなお前の所に持ってこさせるのだ』
これは、モーセのしゅうとである祭司エテロから、モーセが叱られるというシーンです。そして、モーセはそのアドバイスを忠実に聞き入れるわけですが、これは大きな集団を階層構造で管理することについての一番古い文書だと言われているものです。
モーセは典型的な「自分がやったほうが早い病」だったわけですね。
新任管理職の方に対して、よく使われる言葉に、「自分の分身を作りなさい」というものがあります。つまり、自分のやれる仕事は、部下に任せることで部下を成長させ、自分は次のステップの仕事に向かうことが大切だということで、権限委譲がいかに重要かという意味です。任せることで、人も組織も成長するのです。
それから、任せるのは、「作業」ではなく「責任」でなくてはなりません。「作業」というと、「任される」のではなく、「仕事を振られる」「仕事を投げられる」という感じでしょうか。
責任が伴って初めて権限委譲になります。責任という言葉の中に「任=任せる」という漢字が入っています。人は、権限委譲されて、自分で決めて行動できるようになると、モチベーションを上げますが、人から決められて行動を強要されると、モチベーションを下げます。

任せるのが苦手だと思っている人は、部下がやるべき仕事に対して、つい自分の手が出てしまいそうなときは、「あ、部下の成長の機会を奪っているんだな」と強く思ってください。その我慢が部下を成長させるはずです。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
連絡先:info@planet-5.com
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