DXは、人材の採用領域でも進化を続けています。採用DXは単なるIT化ではなく、業務プロセスを変革して、効率化、マッチング精度の向上、人材定着を図る取り組みとなっています。昨今では、オンライン面接は当たり前、AIによる書類選考や面接も導入されてきていると聞きます。
このようなDXの中で、最も多く導入が進んでいるのはATS(採用管理システム)ではないでしょうか。応募者情報の一元管理、選考状況の可視化、面接日程の自動調整などの機能が代表的なところです。
採用市場が一本化?
このATSを活用して採用DXを加速させているのが、求人アグリケーションサイトと呼ばれるWEBサービスです。Indeedや求人ボックスはCMなどでおなじみですね。求人アグリゲーターは、複数の求人媒体や企業の採用ページから情報を収集・統合し、求職者が一括で検索できるようにする仕組みです。GoogleなどのWEB検索エンジンと同じような機能とも言えます。
この機能にプラスして、企業のATS(採用管理システム)と直接連携して求人情報を取得・更新する方法もあり、積極的にアグリケーションサイトに自社の求人情報を表示させる動きも活発に行われるようになりました。企業にとっては、「1つの媒体に掲載するだけ」で広範囲に求職者へのリーチが可能になり、採用コストの削減と効率化が実現できるようになったことが大きなメリットです。
求職者にとってもメリットは大きく、ネットを検索するだけで複数サイトを横断する手間が省け、検索効率が向上し、条件に合った求人を見つけやすくなります。求職者がより多くの求人情報にアクセスすることが可能になり、選択肢が広がるため、いわゆる摩擦的失業※の解消につながるものとして社会的な意義も大きそうです。
※企業が求めるスキルと、求職者が希望する条件がかみ合わないことで生じる失業のこと
企業・求職者ともに便利になったということは…?
企業側は迅速かつ多くの求職者にリーチすることが可能になり、求職者もいっぺんに沢山の求人から仕事を選ぶことができるようになります。求人アグリケーションサイトによって、今まであちらこちらに散らばっていた求人情報が一本化されつつあり、求人市場はスリムになってきています。
イイことばかりのように聞こえますが、「求職者もいっぺんに沢山の求人から仕事を選ぶことができるようになった」ということは、「人材獲得競争がより激しくなった」とも考えられます。
つまり、
・同業他社の求人が並列表示され、差別化が困難になった
・求職者が複数社に同時に応募できるので、選考スピードが勝敗を分ける
・求職者の「企業選びの目」が厳しくなり、魅力や発信力が問われる
ということが考えられます。社会全体の就業者数は伸びているのに、なぜか当社には応募すらない…という一因になっているかもしれません。
●文/岸川宏(きしかわ ひろし)
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部 マネージャー(キャリア開発支援チーム/データリサーチチーム)、社会保険労務士
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。1999年、株式会社アイデムに入社。賃金データの調査分析、労使関係に関する意識調査等、労働環境の実態に迫る情報提供に従事。採用時だけではなく、採用後の人材の定着、育成、戦力化と、人的戦力確保のための環境づくりに資する総合的な情報の提供に努めている。