最低賃金はどうやって決まるの?
日本の最低賃金制度は、最低賃金法に基づいて運用されています。近年は地域別最低賃金の改定が報道で取り上げられることも多くなりました。特に今年度は全都道府県で「最低賃金1000円」を超えることとなり、自分が学生だった頃と比べると認知度も金額もだいぶ変わりました。ただ、金額ばかり注目されるようになり、法の目的から少しずれてきているように見受けられるところも出てきました。
地域別最低賃金は、厚生労働大臣の諮問を受けた中央最低賃金審議会が「引上げの目安」を出し、これをもとに各都道府県の地方最低賃金審議会が審議をすすめ、最終的に金額を決めていきます。いずれの審議会も使用者代表、労働者代表、公益代表の三者構成ですすめられます。公益代表とは、使用者側と労働者側の間に立ち、公平・中立の立場の代表という意味です。
中央最低賃金審議会では、様々な調査結果や指標を参考に引上げの目安を決めていきます。特に注目しているのは「生計費」「賃金」「通常の事業の賃金支払能力」の3要素です。これは最低賃金法に「地域別最低賃金の原則」として、賃金決定の際に考慮しなければならないと定められているものです(第九条)。特に「生計費」については“労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮する”ようにとされています。「賃金」「通常の事業の賃金支払能力」については、同様の定めはありません。
最賃は労働者を守るセーフティーネット
令和7年度、引上げの目安は次の通りでした。
※出典:【厚生労働省】令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について
一方、実際の引き上げ金額については、ランクCの地域はすべて64円を超える額で、高いところでは82円(熊本県)で答申しています。1円2円なら引上げの金額が参考にされているなと思いますが、10円以上違ってくるとなると、中央最低賃金審議会の引上げ目安は、都道府県の実情を充分には加味できていないようにみえます。
最低賃金法の目的は“賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること”(最低賃金法第一条)です。文中の「賃金の低廉な労働者」について、明確な定義は無いようですが、最低賃金額と同等の時給の労働者であればこれに該当すると考えられます。簡単に言えば、最低賃金付近の時給で働く労働者の生活を守るセーフティーネットとしてある法律といえます。
であるならば、生計費を賄える分の賃金が得られるよう金額が定められるべきですが、法律では企業の「賃金支払能力」も加味するようにとされています。支払能力を入れることに関しては、実際に賃金を支払うのは企業ですからわかりますが、「支払える範囲の」検討では法律の目的からずれてしまうような気がします。
●文/関 夏海(せき なつみ)
2014年、株式会社アイデム入社。メディアソリューション事業本部データリサーチチーム所属。パートタイマー募集時時給等の賃金統計や、弊社サービス会員向けの各種アンケート調査の企画・分析などを主に担当。雇用の現状や今後の課題についての調査を進める一方、Webサイトのコンテンツ・ライティング、労働市場に関する情報提供、顧客向け法律情報資料などの作成・編集業務も行っている。