待遇改善は、法対応から『人への投資』へ
こうした状況の中、大手企業では待遇改善が加速しています。小売業を中心に、家族手当や福利厚生の見直し、パート社員への賞与支給、正社員登用制度の充実などが進んでいます。背景にあるのは法対応だけではありません。圧倒的な人手不足です。いまや採用市場では、「いかに安く雇うか」ではなく、「いかに選ばれる会社になるか」が競争力になっています。
実際に、人材確保と定着を目的として、非正規社員の待遇改善を進める企業は増えています。例えば、総合スーパーを展開するグループ企業で、パート社員の待遇を正社員並みに引き上げる取り組みを進めています。先行して制度を導入したイオンリテールでは、一定の条件を満たしたパート社員について、賞与や子ども手当、退職金などを正社員と同様にする制度を導入。一部地域では年収が約2割上昇した例も報じられています。
また、ヤオコーでは配偶者出産休暇をパート社員にも有給で適用し、福利厚生面での格差是正を進めています。さらにライフコーポレーションでは、パートナー社員を含めた「人への投資」を進めています。2026年度には、正社員5.91%、パートナー社員6.89%の賃上げを実施し、3年連続で5%以上の賃上げとなりました。
これらの企業に共通するのは、「非正規だから低処遇でもよい」という発想ではなく、「優秀な人材に長く活躍してもらうために処遇へ投資する」という考え方です。
同一労働同一賃金への対応は、もはや法令遵守だけの問題ではありません。深刻な人手不足が続くなか、「非正規社員からも選ばれる企業になれるかどうか?」が、今後の採用力や定着率を左右する重要な経営課題となっています。
今回の改正は、非正規社員を「コスト」ではなく「戦力」としてどう位置付けるかを企業に問いかけているともいえるでしょう。
おわりに
今回の同一労働同一賃金をめぐる改正は、単なる制度対応の話ではありません。企業に対して、「その手当は何のために支給しているのか?」「その休暇の目的は何か?」を改めて問い直している改正です。そして、その先には雇用形態ではなく、役割や支給目的に基づいて処遇を決定する人事制度への転換があります。人件費上昇、人手不足、年収の壁問題。企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。だからこそ今求められているのは、場当たり的な対応ではなく、手当・休暇・評価制度を含めた「制度全体の再設計」ではないでしょうか。
これこそが2026年改正の本質であり、人事労務担当者に求められる次の一手だと考えます。今回の改正を、単なる「パート社員の待遇をどうするか?」という問題で終わらせるのではなく、自社の人事制度そのものを見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
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株式会社アイデム 人と仕事研究所 所長、社会保険労務士
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。1999年、株式会社アイデムに入社。賃金データの調査分析、労使関係に関する意識調査等、労働環境の実態に迫る情報提供に従事。採用時だけではなく、採用後の人材の定着、育成、戦力化と、人的戦力確保のための環境づくりに資する総合的な情報の提供に努めている。