厚生労働省は、労働政策審議会の答申を踏まえ、「無期転換ルールの見直し」に関して省令等の改正作業に取り掛かるとしました。施行は2024年4月予定とされています。今回は、無期転換ルールをめぐる現状、改正省令案を基に、企業が対応すべき事項と実務上の準備ポイントのアウトラインについて整理します。
無期転換ルールとは?
無期転換ルールとは、2013年4月1日以降に開始した「有期労働契約」が、同一の会社で通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールで、2018年4月1日以降に実際の適用者が現れています。また、大学等、研究開発法人等の研究者等は、通算10年とする特例が定められており、2023年4月1日以降、特例対象者についても本格的な無期転換申込権の発生が見込まれます。
無期転換申込権の行使状況
厚生労働省の資料によれば、2018年度・2019年度合算で「無期転換の申込む権利が生じた人」のうち、「申込む権利を行使した人」の割合は27.8%、同権利を行使せず「有期雇用で継続雇用した人」の割合は65.5%となっています。また、「申込む権利を行使した人」の割合は、企業規模に比例して増えています(「5〜29人」8.6%、30〜99人」17.1%、「100〜299人」22.3%、「300〜999人」22.2%、「1,000人以上」39.9%)。
改正省令案の要約
2024年4月に予定されている主な改正内容は、次のとおりです。
(1)働く期間が通算5年となるなど、無期雇用に切り替える権利が生じる契約更新の際に、その権利があること(無期転換申込機会)と無期転換後の労働条件を、書面で明示する必要があります。
(2)労基法第15条(労働条件の明示)で具体的に明示する事項に、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の上限並びに就業場所・業務の変更の範囲が追加されます。
(3)無期転換の権利が発生する直前に雇い止めが行われるなどのトラブル防止のため、最初の契約締結より後に契約の変更や更新をする際に、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の上限を定め、あるいは引き下げようとする場合には、その理由を労働者に事前説明しなければなりません。
また、無期転換後の労働条件明示の際は、労働契約法第3条2項(均衡考慮の原則)の主旨を踏まえて、就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、労働者に説明するよう努めなければならないとされています。(努力義務)
・資料No.1-2労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案(概要)<PDF>
・資料No.2-2有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準の一部を改正する件案(概要)<PDF>
●文/田代英治(たしろ えいじ)
株式会社田代コンサルティング代表取締役、社会保険労務士
大学卒業後、川崎汽船株式会社入社。人事部にて人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。2005年同社を退職し、2006年に人事労務関連のコンサルティングを行う株式会社田代コンサルティングを設立。企業の労務管理の指導や人事制度の構築・運用、人材教育などに取り組む。著書に『企業労働法実務入門【改訂版】』(共著/日本リーダーズ協会)、『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』(幻冬舎新書)、専門誌への寄稿など執筆実績多数。
https://tashiro-consulting.co.jp/