近年、さまざまな詐欺事件が相次いで発生している。逮捕者の多くが、普通の人たちのように見える。なぜ、彼らは平気で人をだますようになったのだろうか?
有名画家の複製画を売る
52歳の和雄は、有名画家の描いた絵の複製画を高額で販売するという詐欺まがいの商売をしていた。「この絵は財産になります」「10年ほどしたら値上がりします」などと甘い言葉をささやいて、売りつけるのだ。
やがて、だまされた人たちの代理人が押しかけてくるようになったので、彼は事務所をたたんで逃げた。ほとぼりが冷めると、自分ではなく別人名義で会社をつくり、再び詐欺まがいの商売を始めた。
健康サプリメントの会社を起業
35歳の尚哉は長年、不動産や保険などの営業の仕事をしてきたが、人の仲介で健康サプリメントを売る会社を立ち上げることにした。とはいえ、誰も知らない健康食品やサプリメントはすぐには売れない。
そこで、「このサプリメントを飲んでガンが治った人もいます」「すぐに痩せます」などと嘘をついて、売るようになった。商品は売れるようになったが、いつか訴えられるかもしれないと思うようになり、会社をたたむことにした。その後、知人の誘いで東南アジアに渡り、海外で仕事を始めた。
だまされるやつが悪い
普通の会社員だった和雄は結婚して子供が生まれると、郊外に家を買った。仕事でストレスがたまると夜の街で遊ぶにようになり、お金を使うことで女性たちにもてた。やがて借金をしてまで遊ぶようになり、そのことが妻にばれて離婚した。
子供と借金を抱えた和雄は、「金を稼ぎたい」と思うようになった。悪いことをしてでも大金を稼ぎたいと考えるようになり、詐欺まがいの商売と出会った。そして「いずれは誰かにだまされる人を、自分がだましても罪はない」「この世には、利口とバカがいる。自分は欲深いバカだけを相手にしている」「田舎の金持ち老人は、土地を売って金にしただけだ。それを奪ったところで何が悪い」などというゆがんだ考えをするようになった。
尚哉も大金を稼ぎたいと思って起業した。犯罪まがいのやり方でお金を稼いでいる人たちの話を聞いているうちに、和雄と同じように「だまされる人がバカなんだ」と思うようになった。
犯罪の入口
2人が違法な商売に手を染めたきっかけは、反社会的な人たちと関わったことだ。2人は商売のやり方を、そうした人から教わった。彼らに影響され、自分の欲望のために人をだましてお金を稼ぐごとに違和感を覚えなくなった。
近年、スマホの普及によって闇バイトがまん延し、社会問題になっている。簡単な仕事で多額の収入を得られるというあおり文句につられて応募したら、違法薬物の運搬や詐欺や窃盗などの犯罪行為の片棒を担がされてしまうというものだ。犯罪の入口は、さまざまなところにあるので、注意しなければならない。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。