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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

募集内容と実際の労働条件が違ったら〜福祉事業者A事件(京都地裁平成29.3.30判決、労判1164号44頁)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2023年3月28日)

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【事案の概要】
 本件はハローワークの求人票に記載された労働条件が、契約の内容と認められた事案です。被告は障がい児童に対する放課後デイサービス事業を行う会社で、原告は被告との間で労働契約を締結し、指導員として雇用された者です。被告がハローワークに申し込んだ求人票には、雇用期間について「雇用期間の定めなし」と記載されていました。なお、被告代表者は、実際の契約内容は「契約時にあらためて決めればよい」と考えていたようです。採用面接では、労働契約期間の定め等については特にやり取りがありませんでした。

 被告代表者は原告の就労開始後、原告に労働条件通知書を提示しました。被告が作成した労働条件通知書には、契約期間について「期間の定めあり(平成26年3月1日〜平成27年2月28日)更新する場合があり得る」と記載されていました。

 原告はすでに他を退職して被告に就業した以上、拒否すれば「仕事を失って収入が絶たれる」と考え、特に内容に意を払わず、署名しました。労働条件通知書には、裏面に「本通知書に記された労働条件について承諾します」「本通知書を本日受領しました」と記され、原告の署名押印がなされていました。このような事案で、「雇用契約期間の有り・なし」が争点となりました。





【裁判所の判断】
 裁判所は、まず求人票について「求人者が労働条件を明示した上で、求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもの」とし、「求職者は、当然に求職票記載の労働条件が、雇用契約の内容になることを前提に雇用契約締結の申し込みをする」ので、「求人票記載の労働条件は、当事者間において、これと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となる」としました。

 本件では、求人票に雇用期間の定めはなく、面接でも求人票と異なる話がないまま原告を採用したので、原被告間の労働契約は「期間の定めのない契約」として成立したとしました。また、労働条件通知書の記載と原告の署名押印については、最高裁判例(最高裁平成28.2.19判決)を引用し、労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきだとしました。その上で、労働者が自由な意思に基づいて「同意した」と認めるに足りる合理的な理由が、客観的に存在するか否か、という観点から判断されるとしました。

 そして、労働契約が「期間の定めのあるものか否か」は、賃金と同様に重要な労働条件であるとしました。本件は、被告代表者が求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を「明らかにして説明したとは認められない」などとし、原告が自由な意思に基づいて「署名押印した」とは認められず、結論として裁判所は「期間の定めなし」と判断しました。
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につづく


●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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