2020年、弁護士相談プラットフォームを運営する株式会社カケコムは、勤務経験がある男女100人を対象に『職場でのセクハラ経験に関するアンケート』を実施しました。約8割が「セクハラを受けたことがある」と回答し、衝撃的な結果となっています。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、性的嫌がらせのことです。男女雇用機会均等法では事業主に対し、職場におけるセクハラ対策のために、相談窓口を整備するなどの必要な措置を講ずることを義務付けています。対象者は正社員やパート・アルバイトなど、事業主に雇用されているすべての労働者だけではなく、自社に派遣されている派遣社員も含まれています。
多くの人が働いていて、はっきりとした立場の違いや力関係がある職場では、セクハラによる被害が起きやすいと考えられます。今回は、セクハラの相談を受けた際の適切な対処法について考察します。
■今回の事例
Aさん(25歳・女性)は、営業事務として働いていました。転勤してきたBさん(30歳・男性)に好意を持たれ、事あるごとに食事などに誘われました。Aさんは断っていましたが、ある研修の帰り、Bさんの誘いを断り切れずに渋々同行しました。
次の日からBさんの行動はエスカレートし、仕事が終わった後にAさんを待ち伏せし、食事に誘うようになりました。Aさんはこの状況に耐えかねてC係長(35歳・男性)に相談しましたが、他の社員がいる前で「あなたにも気があったのではないか?」と冗談めかして言われました。
■解説
社内の方針や規定を確認する
会社は、セクハラに関する方針や社内規定を明確にする責務を負っています(労働施策総合推進法第30条の2)。相談を受けたC係長は、セクハラに関する方針や社内規定を平素から確認しておくことが必要です。特に、相談窓口や手続きの流れについては、頭に入れておくとよいでしょう。
しっかり話を聞いて、気持ちを受け止める
個人情報保護の観点から、相談を受けるときはプライバシーの保護を重視し、相談者が安心して話せる環境を整えることが重要です。ヒアリングでは相談者の話を遮らず、感情に共感を示します。よくあるのは、相談を受けた上司が相談者の話を途中で遮ってしまうことです。
事例でも、C係長は「あなたにも気があったのではないか?」と自分の考えが口をついて出てしまいました。このような軽率な発言は、セカンドハラスメントにあたる可能性があります。また、Aさんの気分を害したことは言うまでもありませんし、その後の相談もぎこちないものとなりかねません。「話にくいことをよく相談してくれました」「Bさんの態度であなたはとても困っているのですね」など、しっかり相談者の気持ちを受け止めることが大切です。
●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。