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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

マスコミにリークした内部告発者の停職処分は無効?〜O大学事件(岡山地判平成29.3.29、労判1164号54頁)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年9月24日)

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【事案の概要】
 本件は、被告大学の教授である原告が停職3カ月の懲戒処分を受けたため、同処分が「違法、無効である」ことの確認等を求めて訴えを提起した事案です。
 原告は理事長に対し、入学試験採点結果改ざんについての書面を提出しました。同書面で、入学試験の採点委員から点数を低くするよう指示されて従ったことや、同様の指示を受けて拒否した結果口論になったこと等が指摘されていました。





 被告大学は、同書面を受けて内部調査委員会を設置し、内部調査を開始しました。また、原告は放送局に情報提供を行い、書面についての報道がなされました。その後、被告大学は外部委員を含む新たな調査委員会を設置しました。同委員会は最終報告を出して記者会見を行い、不正はなかった旨を発表しました。これを受けて被告大学は、原告が内部告発の事実と告発内容を放送局に情報提供した行為等が懲戒事由に該当するとして、原告を停職3カ月の懲戒処分としました。


【裁判所の判断】
 裁判所はまず、被告大学は公立の高等教育機関であり、その入試において不適正な処理が行われているとすれば、これが公益にかかる事実であることは「明らかである」としました。

 そして、提供する内容が真実である場合はもちろん、仮に真実と認定するに至らない場合であっても、情報提供者が「これを真実である」と信じ、かつ、そのように信じるに足りる相当な理由がある場合には、その情報提供行為は違法性が阻却され、それを理由に「懲戒処分を行うことは許されない」としました。

 その上で、本件の内部告発の違法性阻却(通常なら違法行為だが、特別の事情で違法性がないとされること。例として正当防衛や緊急避難など)の有無について、第三者の供述の信用性、原告の供述との整合性、供述の一貫性・具体性、虚偽の内部告発を行う動機の有無を検討しました。合わせて不適正な方法かどうかはともかく、被告大学の入試において人為的な操作が行われていた事実を認定し、被告大学には不正を行う動機(基礎学力の高い学生を入学させたい)があるとしました。

 このような認定、判断に基づき、原告の告発内容が「事実である」と直ちに認定するまでには至らないとしても、原告が目撃した事実は、原告の認識において「不正が行われたと疑わせるに足りるものであった」としました。結論として、停職処分は「違法、無効である」としました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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