年老いた親の介護が、急に必要になることは珍しくない。誰でも高齢になれば、認知症や病気になったり、けがで寝たきりになったりする可能性がある。そんなことは考えたくはないが、現実は突然やってくるものだ。
想定外のことばかり
39歳の貴子はベテランの経理事務で決算月が近く、多忙を極めていた。そんな矢先、さまざまなストレスが重なって帯状疱疹が出て、頭痛や発熱もあり、寝床から出られない状態になった。
きっかけは、半年前に元気だった父親が脳梗塞で半身不随になったことだ。母親が介護しているが、頻繁に貴子に電話が入った。電話に出ると母親は「すぐに家に来てちょうだい! また、お父さんが怒鳴っているの!」などと、まくしたてるのだ。実家に行くにも片道4時間ほどかかるので、移動だけでも大変だった。
貴子は帯状疱疹になったことで、ゆっくり自分の人生を考える時間ができた。しかし、それがまた新たなストレスにもなった。寝ていると、うつ気分になってきた。今までの人生を否定的に考え、怒ったり泣いたりして感情のコントロールが効かず、精神的に限界だった。そこで長期休暇を取ることにした。いずれにしても、落ち着いたら会社を辞めようと考えていた。
兄の死と病に倒れた父親
3年前、貴子の兄は交通事故で亡くなった。両親が悲しみに沈んでいたので、葬儀は貴子が仕切り、費用も負担した。そして半年前、元気だった父親が脳梗塞になり、身体が思うように動かなくなった。リハビリで多少の意思疎通はできるようになったが、食事をしたり、着替えたり、風呂に入ったりなど、生活のあらゆる場面で介助が必要になった。兄が両親の面倒をみることになっていたが、自分がみることになった。
また、1カ月ほど前、長く単身赴任をしている夫から女性と子供がいることを告白された。夫との関係はだいぶ前から冷え切っていたが、ショックは大きかった。自分との間には子供がいないので、「よほど子供が欲しかったのだろう」と思った。わずか数年の間に次から次へと想定外の出来事が起こり、貴子のメンタルはどん底だった。
想定外の連続
想定外の問題が次から次へと起きたら、どんな人でも混乱してしまう。最初は兄の死で、その後、父親が倒れた。病に倒れた父親は、今までとは別人のようになってしまった。病気になるまでは健康に気を使い、母親とも仲よくしていた。だが、思うように体が動かせないストレスから、自分勝手な振る舞いをするようになった。ぞんざいに扱われる母親は精神的に疲れてしまい、娘の貴子を頼るようになった。
そして貴子は仕事と介護の板挟みによる過労と、単身赴任の夫に交際相手と子供がいることが分かったことからストレスで帯状疱疹になり、うつ状態になった。まず、しっかり休養をとって心身の健康を取り戻さなければならない。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。