近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年3月25日)
【事案の概要】
セルフ方式による24時間営業のガソリンスタンドにおいて、主に深夜早朝時間帯で就労していた従業員(原告)が適応障害を発症したなどとして、勤務先のD社(被告)に損害賠償を求めた事案です。
ガソリンスタンドを運営するA社は、深夜早朝時間帯における給油所の運営業務をB社に委託しており、更にB社はその業務を被告会社のD社に再委託していました。
原告はD社と労働契約を締結し、深夜早朝時間帯で就労していましたが、その後A社とも労働契約を締結し、週1、2日、A社の従業員として深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになりました。その結果、過剰労働となり、原告が欠勤するようになる前の6カ月間、D社及びA社での労働時間数合計は、概ね244時間から303時間となっていました。
原告は平成26年7月1日、クリニックを受診しました。同クリニックの医師は、労基署に対し、原告の疾病を「精神病症状を伴う重症うつ病エピソード」とする意見書を提出しています。原告の請求内容は多岐にわたりますが、本稿ではD社が原告の過剰労働を把握し得たにもかかわらず「労働時間軽減等の義務を怠った」として、不法行為(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を請求された点について、解説したいと思います。
【裁判所の判断】
裁判所は、原告の連続かつ長時間労働について、D社とA社の下での勤務を合わせると平成26年1月26日(日曜日)を最後に休日が全くないことは、労働者の疲労回復とともに余暇の保障をすべく休日の付与について定めた労働基準法35条の趣旨に照らすと「望ましくない状態が現出している」としました。
また、D社とA社の下での各労働時間数を合計した労働時間数は、欠勤前4カ月以降、1カ月当たり約270時間になる月が連続しています。さらに欠勤前1カ月は303時間45分に至っており、長時間労働による労働者の健康障害の防止を図るべく労働時間の上限について定めた労働基準法32条の趣旨に照らし、「問題のある状態が現出している」ということができるとしました。
そして、原告がA社の下でも同じ店舗で就労していたことから、D社はA社に問い合わせをするなどして、原告の労働日数及び労働時間について、「ある程度把握することができる状況であった」としました。
しかし、このようなD社及びA社での原告の連続かつ長時間労働の発生は、原告自らが「積極的に選択した結果生じたものである」としました。また、D社は基本的に日曜日を休日に設定していること、D社のエリアマネージャーは原告に対し、労働法上問題のあることを指摘し、体調を考慮して休んでほしい旨を注意した上、平成26年5月中旬までにA社での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなどからすると、D社が「安全配慮義務等に違反したとは認められない」としました。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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