近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年10月20日)
【事案の概要】
本件は、郵便事業等を営む会社(被告)の北海道支社で、広域インストラクターとして各地の郵便局を指導していた従業員(原告)が、旅費の不正受給を理由に懲戒解雇され、その無効を主張して地位確認等を求めた事案です。
原告は、約1年半の間に100回にわたり、社用車で出張しながら公共交通機関を利用したとする虚偽の旅費請求をし、合計約54万円を不正に受給していました。発覚後、原告は始末書を提出し、全額を返還しています。
同支社では同様の不正をしたインストラクターが他にも多数おり、会社は原告を含む広域インストラクター3人を懲戒解雇とする一方、営業インストラクター10人は停職3か月(1人)または減給(9人)としました。
【裁判所の判断】
一審(札幌地裁R2.1.23、労判1217号32頁)は懲戒解雇を「有効」としましたが、高裁はこれを「無効」と判断しました(その後、最高裁で上告棄却・不受理となり確定しています)。
高裁は、原告の行為が旅費規程に反し、懲戒事由に当たることは認めました。会社が「黙認していた」「懇親会の費用など業務上の経費に充てた」という原告の主張も、懲戒事由を否定する理由にはならないとしています。
処分の重さについて、会社の懲戒標準には、懲戒解雇〜諭旨解雇を基本とする「会社の金品の詐取」と、停職〜減給を基本とする「虚偽の申告による不正利得」という類型がありました。会社は、その使い分けについて、前者は不法領得の意思が明確なものや、もっぱら自己の利益を図ったものに適用し、カラ出張でも職場の備品購入に充てるなど、自己の利益を図る目的でない場合は後者に当たると説明していました。営業インストラクターらは、不正に得たお金を郵便局への差入れや目標達成の祝品の購入に充てていたとされ、後者が適用されていました。
これに対し高裁は、原告の不正額は停職3カ月の者より多い(約54万円と約28万円)ものの、期間(約1年半と約3年半)や回数(100回と247回)はむしろ少ないと指摘しました。使途についても、1回当たりの額が5000円程度にとどまることなどから、宿泊費が出ない出張での宿泊費や、訪問先の郵便局社員との懇親会の費用に充てたという原告の説明は「不合理ではない」としました。
そして、各局を回って指導する原告の立場からすれば、懇親会も業務の延長上という意味合いを含むもので、営業インストラクターらと同じ趣旨の使途も相当程度含まれていたと判断しました。そのため、原告がもっぱら自己の利益を図ったとまではいえず、行為の態様は「停職3か月の者と概ね同程度である」としました。
そのうえで、多数の社員が同様の不正をしていたなど、会社の旅費支給事務にずさんな面があったことや、原告に懲戒歴がなく全額を返還していることも考慮し、懲戒解雇は他の社員との均衡を欠き、懲戒権の濫用として無効と判断しました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。