【第33回】言葉を印象付ける「エコイックメモリー」
商談や接客時など、ビジネスシーンに応用できる心理学の知識を解説します。
エコイックメモリーとは?
記憶には感覚記憶というものがあります。これは数百〜数秒の間だけ保持される記憶です。この感覚記憶とは正確にいえば「受け取った刺激をそのままの形で短時間保存する」というものです。ちなみに、聴覚情報の感覚記憶をエコイックメモリー、視覚情報の感覚記憶をアイコニックメモリーといいます。
●解説
先日娘から「トレンカ持ってきて」と言われ、思わず「トレンカ?」と聞き返してしまいました。トレンカとはかかとが出るストッキングのようなものらしいのですが、ファッションに疎い人にとってはナゾナゾのように聞こえます。
このように全く知らない謎の言葉で話し掛けられたとして、分からなくても数秒以内なら、そのまま「トレンカ?」と反復できます。こうした数秒間、記憶されることをエコイックメモリーといいます。どんなものでも数秒間は記憶する機能が脳にはあります。
これは言葉の例ですが、視覚で記憶することもあります。これをアイコニックメモリーといいます。そしてそのあと説明を聞けば記憶に残りやすくなるのです。
エコイックメモリーを営業の現場で上手に活用している例をご紹介します。先日、私の通信講座を受けている会員さんとお話したときのことです。この人はもともと接客やトークを得意とし、結果を出しています。私の会員さんの多くは接客やトークに悩んでいます。そこで秘訣を聞いてみました。
その秘訣の1つとして「まずは警戒心を解くことだけを考えますね。出会ってすぐはお互い緊張していますし」。
これは非常に重要です。結果を出す人はきちんとやるべきことをやっています。
その後も話を聞いていると、会員さんが「ときどきですが、あえて難しい言葉で説明します」と面白いことを言い出しました。私「えっ!?難しい言葉ですか?」会員さん「例えば、《エスポストG方式が肝でしてね》などと唐突に話します」私「エスポストG方式…?」会員さん「そう、今みたいに全く分からないことはお客さまも聞き返してきます。お客さまが聞き返してきてから、詳しい話をします」
一般的に売れる営業マンは難しいことを分かりやすく説明します。今までお会いしてきたほとんどのトップ営業マンがそうでした。しかし、この会員さんのようにあえて難しい言葉で説明するパターンもあるということに驚きました。
さらにこうも言っていました。「説明が分かりやすすぎても印象に残りません。ポイントであえて難しく説明します」。 確かにそのとおりだと思いました。
ただ忘れてならないのは、難しい説明に入る前にしっかりと警戒心を解くステップを踏んでいるということです。だからこそ難しい言葉に対してお客さまから質問があるということを忘れてはなりません。 《どうも接客やトークにパンチが足りないなぁ》と感じる人はぜひ参考にしてみて下さい。
菊原智明●営業コンサルタント/関東学園大学経済学部講師。大学卒業後、大手住宅メーカーに入社し、営業部に配属。7年間のダメ営業マンから4年連続トップ営業マンへ。現在は【訪問しないで売る】営業コンサルタントと大学で学生に向け【営業の授業】をしている。著書に『訪問しないで「売れる営業」に変わる本』(大和出版)、『トップ営業マンのルール』(アスカビジネス)など多数。http://www.tuki1.net/
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