【第42回】お客さまが優秀な営業マンに変わる「認知的不協和」
商談や接客時など、ビジネスシーンに応用できる心理学の知識を解説します。
認知的不協和とは?
人は認知に不協和が存在すると、その不協和を低減させるために、なんらかの圧力を起こします。複数(通常は2つ)の要素の間に不協和が存在する場合、一方の要素を変化させることによって不協和な状態を低減または除去することができます。要するに自分の都合のいいように思い込むといった事です。
・解説
認知的不協和の理論を理解する上で、有名な説明としてタバコの例があげられます。喫煙者は、喫煙が身体に悪いことをよく知っています。身体に悪いことを知っていて禁煙できれば不協和は起きません。 しかし分かっていてもタバコをやめられない人も数多くいます。《タバコは体にも悪いし、お金もかかる。しかしやめられない…》というように不協和が起こるのです。
人間は矛盾する認知を持ち続けるとストレスがたまり、この不協和をなんとか低減しようとします。結果、自分に都合のいいように考え出します。 「タバコを吸うことでストレス解消になり仕事もはかどる」「タバコを吸っても肺がんにならない人もたくさんいる」「禁煙したらタバコ仲間とのコミュニケーションが取れなくなる」などの新たな認知を持つようになるのです。 タバコには中毒性があり、多くの喫煙者は禁煙が難しく苦しいものと考えます。ですから禁煙するより、自分の認知を変更することの方が、何倍も楽です。
このように人間は、自分に都合のいいように思い込み、自分の選択した道が《これでよかったんだ》と思いたいという習性を持っています。 高額であればあるほど、整合性を保つために無意識的にそういった行動を取ります。例えば家を建てたとき、お客さまはどういう心理になるでしょうか?
家は失敗したらまた建て替えよう、とはいきません。たとえ、多少後悔する部分があったとしても納得しようとして、いい点、メリットを探します。「新築は快適だよ」「造りもしっかりしているし、いいよ」「親切にしてもらったしいい会社だった」などなど、友人や同僚に話すものです。 《自分の判断は正しいと思いたい》だからこそ聞かれてもないのにいい点、メリットを話すようになります。家だけに限りませんが、商品を引き渡した直後は紹介が出やすくなります。それはこういった理由からなのです。
私がお付き合いしている住宅メーカーの社長さんは、引き渡し前に会社の宣伝入りのハガキを「引っ越しのお知らせに使ってください」とプレゼントします。お客さまは「すてきな家ができました」とお友達に告知してくれるのです。こういった工夫をすることで紹介が発生するのです。 商品引き渡し直後、お客さまは整合性を保とうとして人にいい点を話してくれます。そのときを逃さず、密に付き合い、紹介をもらいましょう。
菊原智明●営業コンサルタント/関東学園大学経済学部講師。大学卒業後、大手住宅メーカーに入社し、営業部に配属。7年間のダメ営業マンから4年連続トップ営業マンへ。現在は【訪問しないで売る】営業のコンサルティングと大学生に向けて【営業の授業】を行っている。著書に『訪問しないで「売れる営業」に変わる本』(大和出版)、『トップ営業マンのルール』(アスカビジネス)など多数。http://www.tuki1.net/
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