■相談
ある日、部下が打ち合わせテーブルでランチを食べながら、「うちの会社はビジョンがはっきりしてなくて困る」、「うちの会社は朝令暮改でコロコロ方針が変わる」などと、愚痴をこぼしているのが聞こえてきました。そこで、「まあ、たしかにそうだよなぁ。うちの会社の課題だよなぁ」と横から話に入っていったら、私が近くにいたことに気づいていなかったらしく、びっくりした表情で部下たちは黙り込み、気まずい雰囲気になってしまいました。
私としては、部下の気持ちに寄り添って、意見をくみ取ろうとしたつもりだったのですが、何かまずいところがあったのでしょうか?
■回答==========
ストレートに回答するなら、かなりまずい対応だったと言わざるを得ません。あなたがいる前で愚痴ったのならまだしも、あなたがいないと思っていて愚痴っていたのなら、部下にとっては上司に聞かれたくない話をしていた可能性もあります。そっと静かに立ち去るか、せき払いでもして自分の存在をさりげなく知らせるか――そんな対応しか思い浮かびません。あなたが部下の中に加わって話が盛り上がることなどありえないと思ったほうが賢明です。
かつて、ある企業が全従業員に対して、「自社についての満足度調査」を実施しました。制度や待遇、労働環境や業務内容、社風など、項目は多岐にわたっています。出てきたデータをまとめてみて分かったことがありました。1つは、部署によって満足度の高い部署と低い部署が明確に二極化していること。もう1つは、部署の満足度が、その部署を担当する上司の評価とほぼ一致していたのです。つまり、社員の満足度に最も影響を与えていたのが、直属の上司の存在だということです。
「部下が言う“会社”とは、直属の上司のことに他ならない」と言い切った経営コンサルタントがいました。ちょっと(いや、かなり)怖い言葉ですよね。つまり、「うちの会社はビジョンがはっきりしてなくて困る」、「うちの会社は朝令暮改でコロコロ方針が変わる」と部下が言っているのは、要するに「うちの上司はビジョンがはっきりしてなくて困る」、「うちの上司は朝令暮改でコロコロ方針が変わる」という意味だということです。
相談者の方も、何か感じるところはありませんか? 部下の方たちが気まずく思ったのは、「会社=(イコール)上司」ということだったからかもしれません。
「うちの会社も、困ったもんだよ。ビジョンは曖昧だし、方針もコロコロ変わるし」などと、部下の前で他人事のように会社を批判しているとしたら、あなたは天に向かって唾を吐いているようなものです。あなたの部下は、そんな上司を決して認めようとはしてくれません。
なんだか、相談者の方に厳しいことばかり言ってしまいましたが、あなたの「部下に寄り添おう」という気持ちはよく理解できます。ただし、これを部下と同じレベルでネガティブな空気を作るような方向には持っていかないことです。
部下の前で「うちの会社はダメだな」というような会社の愚痴は、「上司にとってのNGワード」だと思ってください。
>>>次ページにつづく
ほかにもある「上司にとってのNGワード」とは・・・?
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。