人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2021年6月17日)
組織変革の臨界点を起こすための「3分の1の法則」
屋外で行われた海外の音楽フェスティバルでの出来事です。
多くの観衆が座って鑑賞している中、1人の男性が立ち上がり体をクネクネとさせながら踊り始めました。みんな彼を奇異なものでも見ているかのような感じでいます。そんな周囲の目など構わず、男は踊り続けます。
やがて、もう1人の男性が踊りに加わります。そして、仲間に一緒に踊ろうとでも言うように手を振ります。1人、2人と踊る人数が増えていきます。彼らは周りの冷たい視線がどうであれ、楽しそうに踊り続けるのです。
しばらく数人の踊りが続いた後、徐々に踊りの輪が大きくなっていきます。すると、30人くらいを超えたあたりで、踊りの輪に次から次へと多くの人たちが走って駆け付けていくではありませんか。それはもう収拾がつかないくらいに。踊りの大集団が出来上がり、今度は踊っていない人のほうが、「なぜ踊らないの?」という感じで取り残されていくのです。

驚くことに、上記の変化はたった3分間の出来事です。これは集団に大きな変化が訪れるときの臨界点を見事に表している例だといえるでしょう。
(YouTubeの以下のURLで見ることができます。
組織が変化するときは、たいてい1人のリーダーが起点になります。そして、それに従う人が1人、2人と増えていきます。最初の転換点は3分の1の人が賛同するあたりです。そこまでは順調に増えても、そこからしばらく停滞が続きます。しかし、その期間を粘り強く目標に向かって取り組んでいくと、賛同者が急に増えていき、3分の2の人が賛同すると、もうリーダーが何も言わなくても、組織自体が自発的・加速度的に変化し、一気に全体を巻き込むことができるのです。
この劇的な変化が起きるポイントを臨界点と呼びます。
重要なのは、最初の3分の1と次の3分の1(つまり3分の2になった状態)で、これを組織変革の「3分の1の法則」といいます。最初の3分の1を目標に仲間を巻き込む、そして次の3分の2までとにかく諦めずに粘る。すると臨界点が起きるということです。
組織が変化するときは、最初は徐々にでも、最後は大きく劇的に変わるものです。国単位での革命が起きるプロセスでも全く同じです。「この国を変えよう」という1人のリーダーが出現し、そこに仲間が増えていき、各地でデモが起き始めます。そして、ある臨界点が来ると、民衆全体が変化を求め、自発的なデモが各地で起きて一気に世の中が変わるのです。
企業の組織もしかりです。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。