人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2022年11月17日)
決断できないことは、間違った決断よりたちが悪い
管理職候補者向けの研修で、「こういう上司には絶対になりたくないというタイプには、具体的にどういうものがありますか?」と聞くことがあります。
受講者の方からは、「責任を取らない」「部下の話を聞かない」「精神論で部下を追い込む」「目標達成を強要する一方で何も戦略がない」「はしごを外す」「決めてほしいときに決めてくれない」などがあがってきます。残念ながら、まだまだこういう上司が現場では多いのでしょうね。
中でも「上司が決めてくれない」ことで業務が滞ってしまい、仕事が後手に回ってしまうことを不満に思っている部下は意外に少なくないようです。決めてくれない上司は、慎重なゆえに拙速を避ける結論先送りタイプともいえるわけですが、今回は「決断する」ということについて考えてみましょう。
なかなか決めないということでは、岸田首相もその一人かもしれません(国論を二分した「国葬」については早々に決めましたが、あとから「これは国葬儀」というような意味不明で姑息(こそく)な言い訳も出てきて、さらに評判を落としてしまいましたね)。
岸田首相は「検討する」が口癖ということで、「遣唐使」ならぬ「検討士」と冷やかされてもいます。実は、決めずに検討してばかりの岸田首相には、マネジメントの側面から見ても、反面教師的に学ぶことが多いのです。
国会の答弁などで岸田首相がよく使うフレーズに、「あらゆる選択肢を排除せずに議論を重ねたい」、「高い緊張感を持って注視していきたい」というものがあります。
言葉の響きはいいのですが、何を言っているのかをよくよく考えてみると、結局は「検討はするけど、今はまだ決められない」ということです。
仮に当方のミスにより顧客から猛烈なクレームが来て、上司に対していくつかの具体的な対応策を提示し判断を求めたとしましょう。そんなときに、「対応策については、あらゆる選択肢を排除せずに議論を重ねよう。お怒りの顧客の動きについても高い緊張感を持って注視していこう」などと言って、すぐに決断してくれないようでは、部下は確実に上司に愛想を尽かしてしまいます。
第26代アメリカ大統領だったセオドア・ルーズベルトの言葉に「決断時における最善の選択は、正しいことをすること。次に良いのは間違ったことをすることである。一番悪いのは、何もしないことである」というものがあります。
間違った判断よりも、そもそも判断しないほうがよっぽどたちが悪いということです。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。