人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2023年1月26日)
サッカーの本質は、ボールに触っていない89分間にある
去年は、サッカーW杯で日本中が盛り上がりましたね。目標としていたベスト8には手が届きませんでしたが、強豪国であるドイツとスペインを破った試合に、私も気持ちが熱くなりました。
サッカー日本代表チームには、過去にW杯の出場を逃した「ドーハの悲劇」、初出場を決めた「ジョホールバルの歓喜」など、大きなドラマがたくさんあります。
最初のドラマは、恐らく1968年メキシコ五輪ではないでしょうか。当時のストライカーだった釜本邦茂選手の大活躍で銅メダルを獲得しました。
そのときの代表メンバーに松本育夫さんという方がいます。今のサムライブルーの礎を築いた人物の1人で、現役引退後は、京都パープルサンガのGM、川崎フロンターレ、サガン鳥栖などの監督を歴任。低迷していたチームの立て直しに手腕を発揮してきました。教え子たちの中から、Jリーグの監督をすでに30人以上も輩出しており、指導者を育てるのが上手な指導者だともいえます。
かつて私は、松本さんがサガン鳥栖の監督時代に書かれた自伝本『天命』の編集を担当したことがあります。九州の佐賀から東京に遠征に来ていた松本さんと初めてお会いしたとき、私は次のような質問をされました。
「田中さん、プロのサッカー選手1人が90分の試合の中で、ボールに触っている時間って、平均的に何分くらいだと思いますか?」と。

ゴールキーパーを除けば、ピッチに立っているのは両チーム合わせて20人ですから、単純に90分を20人で割れば、4分30秒という計算になります。ボールが外に出ている時間なども考慮して、私は「3分くらいですか」と答えました。
すると、松本さんは「実は、せいぜい1分程度なんです。どんなにドリブルのうまい選手でも、2分を超えることはめったにありません」。そして、「田中さん、サッカーという競技の本質は、触っていない89分間に、何を考え、どう動けるかなんですよ。だからサッカー選手にとっては、視界の広さが大きなポイントになるんです」とのこと。
私は、大きくうなずくと同時に仕事も全く同じだなと思った記憶があります。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。