採用アセスメントのグループ討議は、応募者にコンサルタントミーティングのメンバーとしての役割を担ってもらい、重要顧客の経営課題について議論することを求めます。
まず、応募者に討議してもらう案件の情報を詰め込んだA4用紙2枚の書類を渡し、それを10分間で読み込んでもらうところから始まりますが、書類をもらった瞬間「正しい取り組み」に舵を切る応募者は、残念ながらごく少数に留まります。それは、新卒採用でも中途採用でも同じです。
ここで最優先されるべき正しい取り組みとは、「課題の全体像をイメージすること」です。経験や知識に依存できない未知の場面では、得られるだけの情報を集めて物事の全体像を把握する必要があり、そうすることで初めてその本質が浮かび上がります。
このプロセスを踏んで対象の正体を明らかにしないと、人は正しく主体的に動けません。このプロセスは思考プロセスそのものであり、「全体像の把握」は、思考を生産的に機能させるための重要局面となります。
究極の採用基準は「思考力の高い人」
不確実性の高い今の時代、経営者なら誰もが「自分の頭で考え、自分で動くことができる人」を採用したいと願っています。多分、これが今日における「優秀な人」の集約的な定義なのでしょう。
前述のように、未知領域で正しく目標設定するためには対象の全体像を知ることが必要不可欠であり、そのためには思考力を駆使することが求められます。いわゆるマネジメント能力はもちろん、対人場面で求められる利他性や感受性なども思考力が前提にあり、「仕事ができる人は思考力が高い」に例外はありません。
それ故に、私たちの採用基準は一貫して「思考力の高い人」であり、私たちはいつも応募者の思考力に視点を絞ってアセスメントをしています。思考力は学力と違って見極めがとても難しいのですが、応募者の全体観の有無が浮かび上がる「課題ありのグループ討議」は、私たちにとってとても貴重な「思考力を見極める場」となっているのです。
全体に向かわず部分に反応する人たち
討議の案件を記した書類が渡されたその時、普段から思考の習慣を持つ応募者は、直ちに熟読して全体観の醸成に向かい、それ以外の行動を選ぶことはありません。
しかし何らかの理由でそうしない応募者は、早々に案件の熟読を放棄し、「キーワード探し」という取り組みを選択します。目についた部分を取り上げ、それについて何かを語れば、それなりに発信の体裁は整います。しかしほとんどの場合、根拠なく抽出されたその「部分」は課題の本質から遠い場所にあり、そこから生まれる発言に生産性が宿ることはありません。
●文/奥山典昭(おくやま のりあき)
概念化能力開発研究所株式会社代表、組織再編支援コンサルタント、プロフェッショナルアセッサー
大学卒業後、商社での海外駐在、大手電機メーカー、人事系コンサルティング会社などを経て、1999年に概念化能力開発研究所株式会社を設立。人の能力や資質を数値化して客観的に適性を評価する人材アセスメントと、組織に必要な人物像を抽出する採用アセスメントを駆使し、企業の組織再編や採用活動を支援。現在、応募者の本質を見抜くノウハウを企業の経営者や採用担当者に伝える採用アセスメントの内製化支援に注力している。著書に『デキる部下だと期待したのになぜいつも裏切られるのか』(共著・ダイヤモンド社)、『間違いだらけの優秀な人材選び』(こう書房)、『採るべき人 採ってはいけない人』(秀和システム)、『採るべき人採ってはいけない人第2版』(秀和システム)
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