自由な心で行動を選択する力
「精神的自立」という概念があります。自立と言えば、「社会的自立」や「経済的自立」が分かりやすいと思うのですが、精神的な自立と言われてもあまりピンと来ないかもしれません。しかしそれは、人の心と行動について考える上で、避けては通れないものなのです。
自立とは、何かに依存している状態を抜け出し、自力で動けるようになることですが、本来の自分の意思で行動を選択できる状態が、精神的自立です。日常の些細なことから、今後を左右する大問題まで、人生は選択の連続です。その選択の場面で、自分の信念や価値観などを基軸にして、何に依存することもなく、自由な心で意思決定できる人が、「精神的に自立している人」と称されるのです。
行動選択の局面で、「こういうときはこうするべきなのだろう」と社会通念に縛られたり、「人からどう見られるのだろう」と人目を過剰に気にしたりするとき、その人の心は自由を失っています。なぜそのようになってしまうのでしょうか。
自由な行動選択を妨げる「強すぎる自己執着」
それは、その人の中で「自己執着」が強まっているからです。自分の在り方や見られ方ばかりを気にして、「自分がこだわる理想像」と「現実の自分」とのギャップを埋めようとする不毛な注力を自己執着と言います。例えば「自分は誰からも好かれていなくてはいけない」という強い呪縛に縛られている人は、人から嫌われないことを最優先した行動選択を繰り返します。
誰にでも多少の自己執着は存在しますが、これが強くなり過ぎると関心の向けどころが自分の心だけになってしまい、自分のこと以外の物事に本気で興味を持てなくなります。他者の利害や心情に意識を向けられない自己中心的な人の多くは、心の奥に「強すぎる自己執着」があります。
人の心の発達とは、自分のことしか考えられない子供から、他者に意識を向けることができる大人へと変わっていくことに他なりません。精神的自立は、人の心が健全に発達した結果なのです。
●文/奥山典昭(おくやま のりあき)
概念化能力開発研究所株式会社代表、組織再編支援コンサルタント、プロフェッショナルアセッサー
大学卒業後、商社での海外駐在、大手電機メーカー、人事系コンサルティング会社などを経て、1999年に概念化能力開発研究所株式会社を設立。人の能力や資質を数値化して客観的に適性を評価する人材アセスメントと、組織に必要な人物像を抽出する採用アセスメントを駆使し、企業の組織再編や採用活動を支援。現在、応募者の本質を見抜くノウハウを企業の経営者や採用担当者に伝える採用アセスメントの内製化支援に注力している。著書に『デキる部下だと期待したのになぜいつも裏切られるのか』(共著・ダイヤモンド社)、『間違いだらけの優秀な人材選び』(こう書房)、『採るべき人 採ってはいけない人』(秀和システム)、『採るべき人採ってはいけない人第2版』(秀和システム)
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