クレームは“事実”を共有する
クレーム対応の経験が少ないと、お客様の感情的な物言いやけんまくに押されて、クレームの内容をきちんと理解することが難しいかもしれません。
リフォーム会社に入った施主からのクレームで「張り替えた風呂のタイルで滑ってケガをした! これは不良工事だ! リフォーム代を返せ!」というものがありました。電話対応した営業マンが上司に報告した内容は、「金銭要求のカスハラ客から電話が入っています」というものでした。
お気づきでしょうか。この営業マンが上司に報告したのは、お客様が伝えた事実ではなく、自分勝手な解釈です。これは、多くの企業で起きているクレーム対応に失敗する大きな要因の1つです。どうしてこのようなことになったのでしょうか。それはお客様の話をしっかり聴いて、きちんと内容を把握しなかったことによるものです。
事実を把握する3ポイント
お客様はクレーム内容を実際よりも誇張して、伝えてくることがあります。その際、お客様の言葉に引っ張られるのではなく、事実を把握することを意識してください。押さえるべきポイントは(1)何があったのか?、(2)何に対して怒っているのか?、(3)どうしてもらいたいのか?、の3つです。
今回の例で言えば、
(1)お客様がリフォームで張り替えたタイルに足を滑らせてケガをした
(2)「不良工事なのではないか?」と不安な気持ちになっている
(3)「リフォーム代を返せ」という申し出があった
ということになり、これを上司に報告ができればよかったと思います。お客様がおっしゃった内容をメモに取り、共有すればよいのです。この場合の解決方法としては、お客様が患ったケガに気遣いの言葉をかけて「どのような状態で足を滑らせたのか?」、現場のタイルの状況を確認して「工事に不備があったのかどうか?」を調べるようにしてはどうでしょうか。
「(3)どうしてもらいたいのか?」に関しては、お客様が具体的に言ってこないケースがよくあります。その際は質問をして、お客様から「どうしてほしかったか?」を聞くようにしましょう。
<お客様の要望を聞くための質問例>
「それは、私共の案内が不足していたということでしょうか?」
「つまり、商品がご要望の内容と違ったということでしょうか?」
「スタッフからお客様を疑うような対応があったということでしょうか?」
上記のようなフレーズで質問をしていくと、お客様に「何があったのか?」が明確になってきます。
●文/谷厚志(たに あつし)
“怒りを笑いに変える”クレーム・コンサルタント。一般社団法人日本クレーム対応協会の代表理事。
学生時代より関西を拠点にタレントとして活動。芸能界を引退後、会社員としてコールセンターやお客さま相談室のクレーム対応責任者を歴任。2,000件以上のクレーム対応に接し、クレーム客をファンに変える独自の対話術を確立する。2011年、クレーム対応のコンサルティング会社を立ち上げて独立。圧倒的な経験知と人を元気にするトークが口コミで広がり、年間200本以上の講演・研修に登壇する。著書に『損する言い方 得する言い方』(日本実業出版社)、『失敗しない! クレーム対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ピンチをチャンスに変えるクレーム対応術』(近代セールス社)など。フジテレビ「ホンマでっか?TV」、日本テレビ「ZIP!」など、メディア出演多数。
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