第31回「コロンビアで学んだこと」
働く個人にこれまでのキャリアや仕事観を聞き、企業が人を雇用する上で考えなければならないことを探ります。
藤木剛さん(仮名・35歳)は今年の春に地元の山梨県から上京し、都内近郊で1人暮らしを始めた。2度目の上京である。
「大学進学で東京に出てきて、卒業のときに山梨に戻りました。この年齢で、再び上京するとは思わなかったです。東京にいる学生時代の先輩には、“30半ばになって地元に戻ることを選ぶ人はいるかもしれないけど、上京するやつは珍しい”と言われました」
上京した理由はフリーライターとして食べていくためである。出版関係の会社は東京に集中しており、都内に住んでいたほうが活動しやすい。学生時代、読書が好きだった藤木さんは、ものを書く仕事に就きたいと思っていた。新卒時に、地元の広告代理店に就職したのも、その会社が地域の情報誌を発行していたからである。
かつての夢への再挑戦を決めたのは、藤木さんの書いた記事がスポーツ専門誌に掲載されたことである。掲載されたのは、2014年のサッカーW杯ブラジル大会の予選リーグで日本代表と対戦したコロンビア代表に関する記事だ。
「コロンビア代表の周辺に私の知り合いがいました。ですので、そのことをネタに編集部に売り込んだのです」
この数年、藤木さんは日本とコロンビアを行き来するという生活を送っていた。日本でお金をためてコロンビアに行き、資金が底をついたら帰国。そして再びお金をため、またコロンビアに向かうということを繰り返していた。
初めてコロンビアを訪れたのは30歳のときだ。亡くなった父親から引き継いだ事業の清算が終わり、一息ついたときだった。藤木さんは一人っ子で、母親も中学生のときに亡くしていた。
「父は私が大学4年のときに病気を患いました。卒業して実家に戻ったのは、父親の看病のためです。地元の広告代理店に就職しましたが、4年くらいたったときに父から仕事を継いでほしいと言われました。それで会社を辞め、仕事を継ぐことにしました。父は個人で保険の代理店をやっていました」
だが、引き継ぎの途中で父親の病状は悪化し、亡くなってしまう。その後、藤木さんは事業を継続するかどうか迷ったが、もともと継ぐ予定がなかったことなどから店をたたむことにする。そして新しい仕事を探す前に、ずっと心に秘めていたコロンビア行きを決行した。
「興味を持ったのは、コロンビア人のガルシア・マルケスという作家が好きだったからです。学生のころから、どんな国なのか行ってみたいと思っていました」
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●取材・文/三宅航太
アイデム人と仕事研究所 研究員。大学卒業後、出版社の営業・編集、編集プロダクション勤務を経て、2004年に株式会社アイデム入社。同社がWEBで発信するビジネスやマネジメントなどに役立つ情報記事の編集業務に従事する。人事労務関連ニュースなどの記事作成や数多くの企業ならびに働く人を取材。
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