原田左官工業所/職人育成の仕組み化と女性の積極採用で、左官を未来につなげていく!
原田左官工業所は職人育成システムの導入や女性職人の登用などで、伝統産業である左官業界の可能性を広げ続けてきた。同所がどのような取り組みを展開してきたのか、追いかけてみる。
職人を社員として雇用
1949年創業の原田左官工業所は、代表取締役社長の原田宗亮さんの祖父にあたる初代が左官の職人集団として立ち上げた。小手を用いて漆喰(しっくい)や樹脂素材などを壁に塗り上げていく左官は、機械化が進む建築業界において、今なお人間の手と感覚に頼る数少ない領域である。
熟練の技が必要だが、室内壁のパネル化やクロス張りが進んでいることもあり、活躍の場は減少傾向だ。おのずと担い手も少なくなり、次世代への技術継承が難しいという伝統産業ならではの問題も抱えている。
そんな中、同社はかねてから「職人を守る」という方針で、左官に携わる人間が職人人生を全うできるように支えてきた。基本的に左官職人は個人事業主である場合が多く、施工会社などから個別に発注を受けるのが通例だ。そのため職人たちは、社会的な保障が未整備な中で働かざるを得ない状況にある。
しかし、同社は職人たちを社員として雇用している。そうすれば年金や保険といった制度で職人を守ることができると原田さんは言う。
「この取り組みのきっかけは、たたき上げの職人だった初代社長が病床に伏せったことです。結局、50代で職人を引退することになってしまったのですが、その後、保障もない中、家で過ごすという寂しい晩年を過ごしていました。個人事業主の集まりでは同じような職人が増えてしまうとの思いから、社員化を推進していくことにしました」
代表取締役社長 原田宗亮さん
4年間で新人を一人前にする
同社は職人の育成にも力を注いでいる。“背中を見て覚えろ”という職人の世界では、一人前と認定されるまでの時間には個人差がある。そこで4年間を見習い期間として、新人が目標を持って学べる仕組みを整えたのである。先輩職人がマンツーマンで指導するブラザーシスター制度、職務レベルごとの評価基準の構築、資格取得の支援制度など、一般企業のようなシステムになっている。
3年ほど前からは新人研修にビデオを利用した“モデリング”を取り入れた。卓越した技術を持つ職人の作業をビデオで見ながら研修用の壁を塗り上げるとともに、自分の作業を撮影して客観的な視点からチェックするというものだ。「この研修を1日でも経験すると、新人は大きく変化します。技術的には未熟でも、一通り壁を塗り上げる感覚を身につけることができるんです。なんとか様にはなるので、新人を現場に連れて行っても違和感なく溶け込めます」
今の若い世代は“教えられる”ことに慣れており、言われたことはきちんとこなすものの、言外のニュアンスなどを捉えるのが不得手な傾向がある。従来のように「背中を見ろ」という教育では、不十分な可能性がある。昔ながらの方法を押し付けるのではなく、今の時代に合った形でアレンジしているのだ。「本当の技術は自分で苦労して、覚えるしかありません。しかし、導入の時点ではモデリングという形でワンクッションを入れた方が、その後の成長につながっていくと実感しています」
女性職人の力で、新しい可能性を広げる
近年、建築業界では自然回帰の流れを受け、昔ながらの素材を活用する左官が見直されている。実際、漆喰を塗った壁は湿気を吸収したり、においの改善といった効果もあり、住宅の長寿命化や快適な空間づくりにつながるという。また、匠の技を駆使した壁の仕上がりは美しく、商業施設や店舗などで左官による壁が採用されるケースも増えてきた。
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●有限会社原田左官工業所所在地/東京都文京区千駄木4-21-1ハラダビル設立/1972年資本金/4800万円従業員数/41人事業内容/左官工事、タイル貼り工事、防水工事、組積工事などホームページ/ http://www.haradasakan.co.jp/
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