第3回「サービス業のメンタルヘルス」
ホテルやレストランで心温まるサービスを受けると、誰でも癒やされるものです。今回は、サービス業に携わる人々のストレスについて考えます。
ホテルやレストランで心温まるサービスを受けると、誰でも癒やされる。また、病院で看護師さんのケアを受けると病気もよくなる。誰でもそんな経験があるだろう。
しかし、サービス業のプロである彼らは実は燃えつきやすいことは知られていない。今回は、彼らサービス業に携わる人々のストレスについて考えてみよう。
もう面倒くさい
「虐待しそうな自分が怖い。もう面倒くさい」舞はそう言った。看護師をしている舞は、幼稚園児の息子の子育てに疲れきっていた。息子は他の子供より甘えん坊で、自分のこともなかなかできない。
小児科に勤務している舞は、職場ではとても優しい看護師だ。恐らく、優しさや思いやり、愛情などは、職場ですっかり使いきってしまうのだろう。自分の家族や子供にそうした感情を出すことがほとんどないという。逆に息子がテキパキと行動しないとキレてしまうのだ。
舞は、看護師として患者やスタッフに深いレベルでの感情を使い、夫や子供に愛情のある態度がとれなくなっていた。舞はそのことにまったく気づいていなかった。舞は燃え尽きてしまっていたのだ。
サービス業は感情の労働
ホテルやレストランでお客さまにサービスをする人々や、また病院や施設で患者さまのケアをする看護師、介護福祉士などのヒューマンサービス従業者は、極端なことをいえばどんな不幸な出来事があったとしても、自分の感情を押し殺して、笑顔でお客や患者に対応しなければならないのだ。
そこに当然自分の本当の感情と仕事での感情にギャップがおきる。また、そうした演技された感情はお客ばかりではなく、スタッフ間でも長期間使われることになる。そこには、自分でも気がつかないストレスが潜むことになる。こうしたサービス業は感情労働とも呼ばれている。
メンタルヘルス豆知識
今回のテーマは「サービス業のメンタルヘルス」ということである。心からのサービスも表面的な演技だけでは、お客にばれて信頼を失ってしまう。そこで、心の深い部分から、本当の感情を使ってサービスをするようになる。
すると、お客からも感謝され、会社の業績も上がってくる。サービスの技術が高まることで仕事での満足感も大きくなってくる。しかし、ここに大きな盲点がある。人間の本能的な感情を商品化することによって、日頃の生活で喜怒哀楽の感情が素直に出にくくなることがあるのだ。いわゆる感情まひの症状だ。また、感情をより多く使うことによって燃え尽きが起こり、何をしても楽しくない気分になることがある。
さらに、職場で困ったお客のクレーム処理などでネガティブな感情を使うと、余計に感情に負担がかかり、日常生活では自然で温かい感情や思いやりが出にくくなってしまうのである。
サービス業によっては、より自然な笑顔、長くからの友人のような態度、どんなに困ったお客にもけっして怒りをあらわにすることなく丁寧に対応する。こうしたヒューマンサービス従業者のひそかに抱えたストレスは、自分の感情をまひさせるだけではなく、隠れたストレスを身近な家族の中で発散させるしかないようだ。子供は、原因も知らずにただその犠牲者になる場合もある。
雇用者側の対策としては、スタッフに無理をさせてはいけないということである。
●河田俊男
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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