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近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2023年1月31日)
【事案の概要】
原告(被控訴人)ら2名(A、Bとします)は、被告企業(控訴人)の姫路工場に勤務していました。被告は2003年5月9日、原告らが所属していた係の廃止を決定し、6月23日までに霞ヶ浦工場への異動を行うこととし、やむを得ない理由で異動できない者は「上司に申し出ること」、異動できない場合には「6月30日付退職となること」を通知しました。
原告らは個人面談では家族の状況等について申し出ませんでしたが、その後、書面により介護が必要な家族がいる等、家族の状況を伝え、姫路工場にとどまりたい旨を申し入れました。被告は「人にはそれぞれ事情があるだろうが、霞ケ浦工場へ異動して新しい任務に就くように」と回答し、さらに事情を聴取しませんでした。
そこで、原告らは霞ケ浦工場への配転命令が「無効である」と主張して、同工場に勤務する雇用契約上の義務がないこと等を求めて提訴しました。1審判決で配転命令が無効とされたため、被告が控訴しましたが、2審の大阪高裁も配転命令を無効としました。
【裁判所の判断】
裁判所は、被告の配転命令権を認めつつ、これを濫用した場合には「配転命令が無効となる」としました。そして配転命令について、業務上の必要性がない場合や、業務上の必要性があっても配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたとき、もしくは労働者に対して「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき」などの特段の事情のある場合は権利の濫用となり、「配転命令は無効となる」としました。これは配転命令の効力に関する判例に従った判断の仕方です。
育児介護休業法との兼ね合い
育児介護休業法26条(※)については、配置の変更をしないことや介護等の負担軽減のための積極的な措置を講ずることを「事業主に求めるものではない」としつつ、「事業主が全く何もしないことは許されない」としました。
※育児介護休業法26条
事業主は雇用する労働者の配置変更で、就業場所の変更を伴う場合、その就業場所の変更により就業しつつ「子の養育や家族の介護を行うことが困難となる」労働者がいるときは、当該労働者の養育や家族の介護の状況に配慮しなければならない。
配慮の具体的な内容については、事業主に委ねられるとしつつ、子の養育・家族の介護が困難となる場合、これを避けられれば避け、避けられない場合には「より負担が軽減される措置をするよう求めるものである」としました。仮にこのような配慮をしなかったとしても、直ちに配転命令が違法になるわけではないが、配慮の有無程度は「配転命令権の濫用の判断に影響を与える」としました。本件被告の配慮の程度については、要介護者の存在が明らかになった時点でも実情を調査しないまま「配転命令を維持した」のは、法の求める配慮としては「十分とは言い難い」としています。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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