人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2023年3月23日)
扱いやすい人材ではなく、自分よりも優秀な人材を採れ
新卒の採用シーズンになると、どの企業も短期間に数多くの学生を面接しなくてはならない状況になります。大手の企業では人事部だけでは対応ができず、全社のマネジャーに声がかかり、いろんな部署から面接の現場に駆り出されることがあります。
私も人事部に在籍時代は、扱う商品も職種も異なる、それこそバラエティに富んだ現場の管理職の方たちに面接をお願いしたことが何度もあります。中には、「面接なんて一度もしたことがない。どんなふうにすればいいの?」「自分の部署に欲しい人なら、何となく分かるけど、全社的な求める人材の採用基準って何?」など、採用面接の経験のないマネジャーさんたちから、あれこれ質問されたものです。
採用基準について伝える際に、最も分かりやすい例で使っていたのは、「自分にとって扱いやすい人材ではなく、むしろ手ごわく扱いづらいくらいの人材を採用してください」というものでした。
どうしても人は、自分にとって扱いやすい人物を好ましいと感じるものです。ただ、そういう人材は結果的にこぢんまりとまとまってしまい、「従順なイエスマン」になりがちです。むしろ扱いづらいくらいのほうが、大化けする可能性があるのです。

あるベンチャー企業の経営者が人事部の採用担当者に示した採用基準は、「将来的に、自分の上司になりそうな人」というシンプルなものでした。「今いる社員よりも優秀な人が入社し、既存の社員を超えていくからこそ、会社は成長できる」というのが理由です。
現状の会社の規模に見合った人材を採用することはたやすいことですが、それだと結局は、その企業規模に満足した人材しか採れず、結果的に会社もその規模止まりになってしまいます。これだと成長など望めるべくもありません。
現状に満足しないような人材を採用して初めて、企業は今の器を超えていくというわけです。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。