<ストレス心理コンサルティング>
人にはさまざまな能力があり、本人が知っている場合もあれば、未知のものもある。早紀はパソコンの入力は遅いが、例えば子供の頃から習っている英語は流暢で、会話もできる。こうしたスキルを職場の人たちは誰も知らない。パソコンの扱いが遅いというだけで、彼女の能力を評価してはいけない。
心理的安全性
健全で健康的な職場には、心理的安全性がある。それは職場の全員が尊重され、率直に自分の意見が言え、心配事や不満を言っても受け入れてもらえるといったものだ。早紀は、職場で問題や悩みを相談できる状況ではなかった。同僚から疎ましく思われ、排除されているような空気があった。職場の心理的安全性を高めるには、社員全員に心理的安全性について教育するなどして、会社全体に浸透させなければならない。
会食恐怖症と発達障害
早紀が発祥した会食恐怖症は、社会不安障害の1つとも言われている。会食恐怖症になったら、無理に誰かと一緒に食事をしないことだ。ゆっくり食事をすることを受け入れてくれる人とだけ、食事をすればいい。症状が深刻な場合は、心理療法を行っている医療機関に相談する。
また、早紀には軽度のADHD傾向といった発達障害の可能性があるかもしれない。彼らは仕事の処理速度が遅く、先を読むことが苦手なのだ。一度、専門医に相談してみるのもいいかもしれない。
ありのままの自分を愛する
早紀は、子供のころから「急ぎなさい」「早くしなさい」と言われたことがなく、ゆっくり食事をしたり、着替えたりしても責め立てられることはなかった。彼女に必要なのは無理に周囲に合わせようとせず、ありのままの自分を受け入れ、自己肯定感を取り戻すことだ。
うつ病になった彼女は会社を辞め、しばらく休養した後、訪問介護サービスの仕事を始めた。きっかけは以前、祖母に「あなたと話していると心が休まるわ」と言われたことだ。彼女のゆっくりとした話し方や振る舞いは、サービスを受ける老人たちに喜ばれ、評判になった。老人たちは、彼女が自分たちと同じペースで接してくれるので、安心してサービスを受けることができた。早紀は職場で欠かせない存在になり、自分の居場所を見つけた。
※参考・引用文献
『あなたにもある無意識の偏見』(北村英哉/河出書房新社)
『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えてゆく61のヒント』内藤誼人/明日香出版社
『科学的に元気になる方法集めました』堀田秀吾/文響社
※参考・引用サイト
『仕事が遅い場合の対策はADHDで処理速度・知覚統合が低め』益田裕介監修/kaien
『「職場いじめ」は“自信のない人”がやっている』安井元康/東洋経済ONLINE
『職場におけるいじめと心理的安全性』Britt Andrestta/一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。