経営破綻したホテルや旅館を再生できたのはなぜか?
先日、リゾナーレ熱海という温泉リゾートホテルに泊ってきました。ここは、過去に経営破綻した「あたみ百万石」というホテルを、現在の経営母体である星野リゾートが譲り受け、再建した施設です。
星野リゾートは、リゾナーレ熱海の他にも赤字だった温泉旅館やホテルを数多く黒字化していることで有名な企業です。系列施設であるリゾナーレ八ヶ岳(以前は「ビブレクラブ小淵沢」という会員制ホテル)も大きな借金を抱えて破綻したホテルを再建した代表例でしょう。
ホテルにとっての立地は、競合優位性の何より大きな要素になります。その点、リゾナーレ熱海は山の上のほうに存在しており、眺望というメリットはあるものの、駅からも、美しい海岸線からも程遠い場所にあります。立地という点だけを考えても、以前のホテルが経営破綻したという理由がうなずける気がしました。
しかし、今やリゾナーレ熱海は予約がなかなか取れないほどの人気施設になっています。それはなぜなのでしょうか?
リゾナーレ熱海のウリの1つに、「ソラノビーチ Books&Cafe」があります。ホテルの最上階にあり、お茶を飲んだり本を読めたりするスペースなのですが、ここにはオーストラリアのゴールドコーストから運ばれた白砂が敷き詰められ、ソファや寝椅子を利用すると、あたかも自分がビーチにいるような錯覚になるのです。手で触っても裸足で歩いてもさらっさらで、「空に浮かぶビーチで夢のようなひととき」というキャッチフレーズどおりの心地よさです。
破綻したホテルを立て直すにあたって、星野リゾートの従業員の人たちがアイデアを出し合ったに違いありませんし、「ソラノビーチ」もその中の1つだったと思われます。
恐らく想像するに、「ホテルは海岸線から遠いので、海岸にいるかのような気持ちになってもらうために、ゴールドコーストから運んだ白砂を敷き詰めたスペースを作って、お客様にカフェや読書の場として利用してもらう」というような提案だったのではないでしょうか。
もし仮にあなたが経営者だったら、その提案にどんな反応を示しますか?
「オーストラリアから白砂を運ぶのに、どれだけ経費が掛かると思っているのか!」「砂を毎日掃除するのにどれくらいの労力とコストが掛かると思っているのか!」「そんな夢みたいな提案じゃなくて、もっと現実的なアイデアを考えろ!」
普通はこんな感じですよね。まだ反応があるのはましで、はなからスルーされてしまうかもしれません。
以上のように否定されてしまった段階で、アイデアを出した社員は、「思いつきで物を言うのは、もう二度とやらないようにしよう」と思ってしまいます。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
連絡先:info@planet-5.com