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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋／岡正俊

カスハラにあった従業員から安全配慮義務違反で訴えられたら〜M事件（東京地裁H30.11.2判決）〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。（2024年4月23日）

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ウ）について
　裁判所はA社がトラブルを終息させるため、穏便な策から順次実施して効果を上げていたとして、ウ）の対応義務は「問題はなかった」としました。まず、Bの接客態度について指導する一方、Cへ謝罪するとともに、Bへの退職要求に応じることなく、関係が修復されるよう双方に働きかけたり、Bに他店で1週間勤務させる等して、トラブルを鎮静化させました。また、トラブルが再発した際、入店拒否措置の可能性をCに伝え、その後Cは来店しなくなりました。





【解説】
　本件のように、カスハラに対する企業の対応によっては、被害者である従業員から安全配慮義務違反による損害賠償を請求されることがあり得ます。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業のカスハラ対策をあげています。

事前準備と起きたときの対応

　カスハラを想定した事前の準備として、�〇�業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発、�⊇抄醗�（被害者）のための相談対応体制の整備、�Ｂ弍�方法、手順の策定、�ぜ卞眤弍�ルールの従業員等への教育・研修をあげています。

　また、カスハラが実際に起こった際の対応として、�セ�実関係の正確な確認と事案への対応、��従業員への配慮の措置（複数で対応、メンタルヘルス不調への対応等）、�Ш独�防止のための取組、�─岫　銑А廚泙任料蔀屬畔擦擦胴屬困戮�措置（プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等）をあげています。

従業員への対応

　実際にカスハラと疑われるような言動があった場合、企業として「顧客に対してどのような対応をとるべきか？」は悩ましく、例えば明確にカスハラとまでは断定できない場合、顧客に対しても謝罪等の対応が必要になるケースも考えられます。

　一方、従業員側への対応も必要であり、顧客対応が悪いとして従業員を一方的に責めたりせずに、上記対策マニュアルに基づき、1人で対応させずに複数あるいは組織的に対応する、マニュアルを整備しておく、相談体制をとって従業員に周知する、メンタル等の配慮を行う等の措置をきちんととっておけば、基本的には安全配慮義務違反の責任を負うことにはならないのではないかと思います。

　本件の企業も対顧客、対従業員を両立させつつ対応しており、裁判所もその点を評価していると思いますので、参考になると思います。


●文／岡正俊（おか まさとし）
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録（第一東京弁護士会）。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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