「必要とされている」という実感さえあれば、簡単に会社は辞めない
私はかつて人事部に在籍したことがあります。
現場から人事部宛てには、いろんな連絡が入ってきます。その中でも、「うちの部下から、突然、退職願が提出された」「部下から退職の相談を受けたのだけど、どう対処すればいいか?」などという退職に関連するものが、一定の比率であります。
人事部の立場からすると、まずは慰留をお願いし、退職希望者とその上長との面談などを側面からフォローするわけです。
慰留した結果、会社に残ってくれる人もいますし、本人の意志が固く退職してしまう人もいます。それは本当に人それぞれです。
ただ、そんなやり取りを横から見ていくうちに、ある法則に気づいたことがありました。それは、「人というのは、必要とされていると感じられている限り、簡単には会社を辞めない」ということであり、逆に、「『もうあなたの好きにすればいいよ』と、諦められた瞬間に、本人が辞めるという決断を下しやすい」ということでした。
必要とされているということは、そこに居場所があるということです。人間にとって、一番悲しいことは、居場所がない状態かもしれません。居場所を自ら手放すには、それなりの力や覚悟が必要になります。
そして、諦められるというのは、必要とされているという糸がプツンと切れてしまうことにほかなりません。なので、すでにほかの会社を向いている人には、そこにとどまる理由がなくなるわけです。
「必要とされている」ことを別の言葉で表すなら、その存在が周囲から承認されている状態ということになります。
承認されることは、働き手にとって非常に重要なものです。周りから認められたいという欲求は、ごく当たり前のものだと思われます。
連載の初回に、ヒトは金銭的報酬だけで就職先を決めるのではなく、意味的報酬こそが重要なポイントだとお伝えしました。
ここまでの連載で、「自分の考えたアイデアが形になる」「自分の仕事にプライドが持てる」など、意味的報酬にはいろんなものがあることを紹介しています。
今回は、承認欲求が満たされることも意味的報酬の中では重要なものだという話をしたいと思います。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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