<ストレス心理コンサルティング>
世代間ギャップは過去にもいろいろあったが、Z世代とのギャップを強く感じがちなのは社会の大きな変化にあると考えられる。Z世代を育成していくには、彼らの心理特性や周辺環境などを理解し、職場全体でサポートしていく必要がある。
Z世代が生まれた背景
Z世代とは、一般的に1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代を指す。大きな特徴は、生まれたときからインターネットが身近にある「デジタルネイティブ」であることが挙げられる。また、日本経済の低迷期に育ったため、価値観は保守的な傾向にあるとされている。コロナ禍でさまざまなことが制限され、耐え忍んだ世代でもあり、そうした状況が彼らの考え方や人生観に影響していることも考えられる。
デジタル健忘症
Z世代の多くがスマホに依存した生活をしており、デジタル性健忘になっている人もいるかもしれない。デジタル性健忘とは、分からないことはパソコンやスマホで検索することやデジタルデバイスに情報を保存することで安心し、その情報を忘れてしまったり、物事を記憶しない傾向が強くなってしまったりする現象のことを指す。
日々スマホを利用していると、スマホに頼って物事や予定などを覚える努力をしなくなるだろう。だが、これでは脳の記憶力が低下してしまう。直哉のところにいた新人が仕事を覚えなかったのも、これに起因している可能性がある。つまり、やる気がないから覚えないのではなく、デジタル健忘症になっているのかもしれない。
また、スマホを使うことで前頭葉への血流が低下するため、判断力や意欲も低下してくる。脳が膨大な情報量にさらされるため、処理が追いつかず過労状態になるのだ。これをスマホ脳疲労という。これを脱するにはデジタルデトックスをする必要がある。5分でもいいのでスマホから離れ、何もしない時間を作るようにする。例えば、休日に自然の中を散歩し、スマホやパソコンから離れて脳に休息を与えるといい。
Z世代のマネジメント
Z世代は承認欲求が強いので、「とにかく褒めるといい」という風潮がある。しかし、頻繁に「元気で明るいね」などと褒められても、嫌な気分になるだけだ。実際、直哉はとにかく褒めなければと思い、やたらと褒めていた。それがかえって、彼らの信頼を失ってしまったのだ。褒めればいいというものではない。例えば、「今まで努力してきたね。だから成果が出たと思うよ」と、具体的な経過や事実関係を褒めるようにしなければ伝わらない。
Z世代に限らないが、新人には明確な役割を与え、サポートしていく必要がある。仕事の進捗も、その都度フィードバックし、フォローすることが大切だ。また、ハラスメントには気をつけて言葉づかいや、接し方に気をつけなければならない。
行為者観察者バイアス
Z世代の育成を難しくしている原因の1つに、バイアス(不合理な思い込み)がある。例えば「行為者観察者バイアス」だ。他人の行動は「内面に原因がある」と考えるのに対して、自分の行動は「自分の外側に原因がある」と考える傾向のことである。新人が自発的に動かないのは、「やる気がないからだ」と決めつけるようなことだ。Z世代と向き合うには、こうしたバイアスを修正し、今までの価値観や考え方を変えて、柔軟に接していく必要がある。
離職する新人に共通していることは、仕事が「やらされ感覚」になることだ。研究で、仕事を上司からやらされている感覚になると、脳が抑制されて前頭葉を中心とした「やる気の回路」が働かなくなることが分かっている。だから、本人が問題を発見し、それを解決することに喜びが見いだせるように支援することが大切だ。自分で行動を起こし、小さな成功体験を積み重ねていく。それを繰り返していくことで自信がつき、やる気もわいてくるのだ。
※参考・引用サイト
「“スマホ脳過労”記憶力や意欲の低下!?」クローズアップ現代2019年2月19日NHK
「Z世代の仕事に関する意識調査」「Z世代のキャリア感に関する意識調査トピックス」渋谷109LAB
「Z世代に求められるマネジメントとは」モチベーションエンジニアリング研究所
「Z世代の就業感と仕事に対する価値観」岩間晴美/静岡経済研究所
「職場に進出し始めた「Z世代」」スマホ&SNS 第一世代の彼ら彼女らとの上手な付き合い方とは?」原田曜平/日本電信電話ユーザ協会
「Z世代の特徴を踏まえた指導・育成のポイント」岡本充裕/人事マネジメント2022.12
「Z世代の「自己肯定感」の育み方」日本セルフエスティーム普及協会
※参考・引用文献
『なぜ、「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』古屋星斗/日本経済新聞出版
『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン/新潮新書
『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方』茂木健一郎/学研プラス
『若者が3年で辞めない会社の法則』本田有明/PHP研究所
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。