風通しが悪く、物が言えない職場なのに、しがみついてしまう理由とは?
この連載は「ヒトがあつまる」をテーマにしていますが、今回は番外編として「ヒトが逃げだす」職場について考えていきたいと思います。
最近、世間をにぎわしているニュースとして、兵庫県の斎藤元彦前知事の問題があります。彼の言動は、マネジメントの観点から見ると、ことごとく反面教師的な内容のオンパレードといえるものです。
・付箋を投げる、机をたたくなどの威圧的な行為
・部下に対して厳しい言葉で怒鳴り散らす
・気に入らない部下を無視する
・業務時間外に部下にメールを送る
…などなど。
斎藤前知事本人は、上記の言動を「適切な指導」「合理的な指摘」と言い訳をしていますが、知事という絶対的な立場を背景にした高圧的な言動は、ハラスメント的には完全にアウトと判断されるものです。
パワハラ防止法が施行され、企業の規模を問わず、管理職に対してハラスメント教育が徹底されつつある今の時代に、これほどまでにあからさまなハラスメントが行われていたこと自体に、ただただ驚くしかありません。
もちろんこういう言動を許してしまった兵庫県庁の組織風土にも問題はあり、それは長年にわたって蓄積されたものだとも想像されます。だからこそ、今回の職員の方からの告発は、相当に勇気あるものだと思われます。それに対して、斎藤前知事の「嘘八百」「公務員失格」などの行き過ぎた表現は、発した側の人間性すら疑われるものです。
仮に民間企業の社長がこのような振る舞いをした場合、おそらく社員の人たちは早々に転職してしまい、振り返ると誰もいなかったという状況になるでしょう。こういう職場は、パワハラによって、ヒトが逃げだしてしまう職場の典型だともいえます。
逃げ出すことに、つまり会社を変わることに抵抗がなくなった背景には、雇用の流動化が挙げられます。転職が当たり前になった今、職業選択(会社選択)の自由があり、自分にとって望ましくない職場にしがみつく理由がないからです。
その点、公務員という立場は、辞めにくいのも事実です。民間企業に比べ、景気などに左右されることがないという安定感・安心感が公務員の強みであり、そこを志望動機にした人たちは、転職など考えることもなく、結果的に組織にしがみついてしまいます。そういう事情から、上の立場に対して物が言えない土壌ができたのかもしれません。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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