情報のデジタル化やインターネットの普及によって、企業の不祥事はSNSなどであっという間に拡散されるようになりました。例えば、採用面接で就職差別につながる質問を受けた応募者がそのことをSNSに投稿し、「ひどい採用担当者がいる」「人を差別するブラック企業」といった悪い噂が広がり、企業の価値や信用が失墜してしまう可能性があります。社会のルールや法令を守るというコンプライアンス意識は、企業にとって重要性を増しています。
採用活動は法令を守り、公正に行わなければいけません。厚生労働省は公正採用選考特設サイトで公正な採用選考のあり方を示していますが、実際に働いてもらう上で応募者に確認しておきたいけど「聞いたら就職差別になるかも?」ということもあるのではないでしょうか。採用活動に関する法律に関して疑問に思ったり、困ったりしたときの対処についてQ&Aで解説します。
Q.妊娠した女性社員が産休・育休に入るため、補充人員の採用活動をしています。できれば、独身の方を採用したいので婚姻の有無を確認したいと思いますが、就職差別にあたるでしょうか? 確認したい理由は、産休に入る人の代わりの人を募集しているので、新たに採用した人がすぐに産休・育休に入ると業務に支障が出てしまうためです。
A.婚姻の有無を確認しても、法律に違反するわけではありません。ただし、聞く理由を説明し、「差し支えなければ」と前置きをした上で聞いたほうがよいでしょう。
応募者の婚姻の有無は業務の都合上、知っておいたほうがいい場合があると思います。問題になるのは、婚姻の有無で「採用するかどうか」を決めることです。不採用になった応募者が「自分は結婚していたから採用されなかったんだ」と思ってしまうことはさけなければなりません。
質問のように産休・育休に入る社員の業務を引き継ぐ人の採用募集であれば、事前にそのことを説明しておくとよいでしょう。ただし、「結婚している人は採用しない」と受け取られないようにする必要があります。
どういう人を「採用するかどうか」は企業の判断です。大切なのは、婚姻の有無にかかわらず「採用基準に達しているかどうか」を見極めることです。
Q.重い荷物を持つことのある業務の採用募集を行っています。業務に支障を来さないように、腰痛の有無などの健康状態を面接で確認したいと思っていますが、問題があるでしょうか?
A.仕事をしてもらう上で、応募者の健康状態を把握する必要があれば聞いても問題ないでしょう。聞くときは不安に感じさせないように、理由を説明するなどの配慮が必要です。
採用面接は、応募者に仕事を「任せられるかどうか」を判断する機会です。判断材料は「仕事ができるかどうか」「成果を出せそうかどうか」であって、持病や既往歴ではありません。入社後に担当してもらう仕事を説明し、それを担うことに「支障がないかどうか」「配慮が必要かどうか」などを確認します。その上で、健康状態を確認しておく必要があれば聞いてもよいでしょう。
また、応募者が病気の治療で通院していて、それが仕事の遂行に関わる場合、会社には安全配慮義務があるので医師の診断書を提出してもらうことができます。例えば、重い荷物を運ぶ仕事で、応募者が腰痛を抱えていて通院している場合です。
理由によっては応募者に健康状態を聞くことができますが、本人の持病や既往歴は基本的には自己申告です。企業が理由もなく聞き出すことは就職差別につながる恐れがあるので注意しましょう
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●文/三宅航太(みやけ こおた)
株式会社アイデム東日本事業本部 データリサーチチーム所属。
大学卒業後、出版社に入社。書店営業部を経て、編集部に異動。書籍の企画・制作・進行・ライティングなど、編集業務全般に従事する。同社を退社後、フリーランス編集者、編集プロダクション勤務を経て、株式会社アイデム入社。同社がWebサイトで発信する人の「採用・定着・戦力化」に関するコンテンツの企画・編集業務を担う。働き方に関するニュースの考察や労働法の解説、取材、企業事例など、さまざまな記事コンテンツを作成している。