答えを教えてはいけない「引き出すマネジメント」
前回のコラムでは、育成の第1段階ともいえる「教えるマネジメント」について、説明しました。今回は、次の段階(第2段階)に話を進めていきましょう。
「部下の成長段階に応じた育成のステップ」の図2をご覧ください。縦軸が「上司の安心度」で、横軸が「部下の自信度」です。「教えるマネジメント」は、上司は不安、部下も自信がないという左下の領域でした。

第2段階は、ちょうど中心の領域になります(仮に全体を縦横3列に9分割した場合、ど真ん中の部分にあたります)。分かりやすく言えば、上司はそれなりに安心してきて、部下も少し自信が出てきたという段階です。
ここは「引き出すマネジメント」という領域になります。
「引き出すマネジメント」のポイントは、「教えない」ことです。つまり、「教えるマネジメント」がティーチングなら、「引き出すマネジメント」はコーチングの領域になります。
コーチングは、答えを相手に与えないと言いますよね。上から下に答えを教えるのではなく、相手の中にある答えをうまく下から上に引き出してあげるわけです。
例えば、「あなたなら、どう考える?」とか、「3つの案のうち、あなたならどれがいいと思う?」と、自分自身で考えさせ、実際にやらせて、できたら褒めて、自信を持ってもらうのです。
このコーチング的アプローチは、部下の成長度合いが非常に大きく期待できる領域で、飛躍的に伸びる人も少なくありません。とりわけ成功体験が重要で、どんなに小さなことでも、成功したという実感が、自信とやる気をもたらします。
コーチングのメリットは、自分の意志で動きを考える力、自己解決する力がつくことです。その一方で、デメリットとしては、相手が答えや考えを持っていない場合や、持とうとしてない消極的な場合には機能しづらいことがあります。従って、「教えるマネジメント」の対象者である新入社員は、そもそも自分の中に答えを持っていないということで、機能しづらいというわけです。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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