若手が求めているのは「何でも知っている上司」ではない
では、新入社員はどのような上司を理想としているのでしょうか。同じアンケートで「理想の上司像」について尋ねたところ、最も多かった回答は「人として尊敬できる」(49.7%)でした。次いで、「相談しやすく悩みを聞いてくれる」(46.3%)、「人によって態度を変えない」(36.7%)、「褒めてくれる」(32.2%)という結果でした。この結果を見て感じたのは、若手社員は「優しい上司」を求めているわけではないということです。
実際、「言うべきことを言い、厳しく指導してくれる」を選んだ人も20.9%いました。必要なときにはきちんと指導してほしい、ということです。しかし、その前提には「安心して相談できる関係」があります。話を聞いてくれる、自分の考えを否定せず受け止めてくれる、人によって態度を変えず公平に接してくれる、といったことです。こうした信頼関係があるからこそ、若手社員は安心して挑戦し、失敗から学ぶことができます。
どれだけ知識や経験が豊富でも、「相談しづらい上司」に部下は本音を話しません。反対に、「この人なら話してみよう」と思える上司には、自分の考えや悩みを素直に伝えます。その対話の積み重ねが、部下の成長につながっていくのだと思います。
「やり方」だけではなく、「意味」を伝える
私自身、前職では航空業界で働いていました。航空業界では、安全や保安に関わる教育が徹底されています。新人の頃、先輩から何度も言われた言葉があります。
「やり方だけ覚えるな。意味を理解しなさい」
当時は、「手順どおりにやればいいのでは」と思っていました。
しかし、経験を積むうちに、その言葉の意味が少しずつ分かるようになりました。例えば、お客様への本人確認や手荷物確認には、一つひとつ理由があります。もし手順だけを覚えていたら、想定外の場面では対応できません。「なぜその確認が必要なのか」を理解していれば、状況が変わっても、自分で考えて判断できます。仕事には、この「意味を理解する」というプロセスが欠かせません。
AIは手順を教えてくれます。質問すれば、手順や方法を分かりやすく説明してくれるでしょう。しかし、「なぜその仕事をするのか」「その行動が相手にどのような価値を生むのか」といった背景や意味は、日々の仕事の中で、人との対話を通じて学んでいくものではないでしょうか。だからこそ、上司には「やり方を教える人」ではなく、「仕事の意味を伝える人」としての役割が求められるのだと思います。
「答えを教える」から「考える力を育てる」へ
例えば、部下から仕事の進め方について相談を受けたとします。そのとき、「こうやればいいよ」と答えを伝えることは簡単です。もちろん、急いでいる場面や安全に関わる場面では、明確な指示が必要なこともあります。しかし、いつも答えだけを与えていると、部下は「次も聞けばいい」と考えるようになります。
一方で、
「あなたはどう進めようと思ったの?」
「他に方法はあると思う?」
「その方法を選んだ理由は?」
と問いかけると、部下は自分なりに考え始めます。
最初は時間がかかるかもしれません。しかし、この積み重ねが「自分で考える力」を育てます。そして、自分で考えた経験は、次の仕事にも生きていきます。対話とは、単に会話をすることではありません。部下の考えを引き出し、整理し、自信へとつなげていく関わり方です。これは、AIがどれだけ進化しても、この役割を代わることはできないと思います。
AI時代だからこそ、人が人を育てる価値が高まる
今回のアンケートでは、「仕事で大切にしたいこと」として最も多かった回答は「良好な人間関係」(71.2%)でした。
仕事のやりがいやプライベートの時間を上回る結果となっています。この結果からも、若手社員は「誰と働くか」を大切にしていることが分かります。
・部下の変化に気づくこと
・挑戦を後押しすること
・失敗したときに一緒に振り返ること
そして、「あなたはどう思う?」と問いかけ、一緒に考えること。こうした対話の積み重ねが、人を育て、組織を育てていくのではないでしょうか。
AIは仕事を効率化し、私たちを助けてくれる心強い存在です。しかし、人を育てる主役は、これからも人であり続けます。AI時代だからこそ、部下の話に耳を傾け、考えを引き出し、成長を支えることのできる「対話する上司」が必要なのだと思います。
上司の役割は「部下が答えを見つけられるよう支援する人」。これが、これからの人材育成に求められる視点ではないでしょうか。
●文/林原菜美(はやしはら なみ)
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部キャリア開発支援チーム 人材育成・研修プランナー
大学卒業後、航空会社にて地上係員として航空保安・お客様対応に従事し、社内教育・指導を務める。その後株式会社アイデムに入社。西日本事業本部にて、企業・商業施設の研修企画を行い、お客様が抱える課題に向き合っている。