第41回「部下を“心の病”にする上司たち」
職場のメンタルヘルスに関する事例・対策などについて、専門家が解説します。
世の中には問題のあるダメな上司が大勢いる。部下たちに居酒屋で愚痴を言われる程度ならまだいいのだが、部下が心の病になったらどうか…。愚痴どころではなく、深刻な問題が待っている。
セクハラ上司
37歳の智子は自動車販売会社に勤務している。彼女は、大粒の涙を流しながら「私、上司にひどいセクハラをされました」と言う。上司は残業で2人きりになると、体を触るなどのセクハラをしてきた。その行為はすぐにエスカレートし、性的行為を強要しようとした。彼女は必死に抵抗し、なんとかその場から逃げた。その出来事があってから、上司のセクハラ行為が幾度も彼女の脳でフラッシュバックした。朝の通勤途中に気分が悪くなり、出勤できなくなることもあった。
上司のセクハラ行為を訴えることも考えたが、結果的にはやめた。彼女は勤続15年、慣れた仕事だ。高い報酬を手放すことはできなかった。3年前に離婚して今は独身。マンションのローンもあり、今の生活を失うわけにはいかなかった。しかし、彼女にはつらく長いPTSDが待っていた。
また、別のケースもある。ヨリーは28歳のフィリピン人で、レストランに勤務して3年になる。日本語も上手で、仕事のできるベテランだ。上司は25歳のイケメンで、誰も見ていないとき、ヨリーの尻を触る。彼女が「キャッ!」と声を上げると、「どうしたの、大丈夫」などと言ってとぼけるのだった。
ある夜、上司は倉庫に彼女を呼んだ。そこでセクハラ行為はエスカレートしたが、彼女は抵抗した。翌日、ヨリーは店を休んだ。上司に会うことが恐ろしかったのだ。その後、ヨリーはうつ気分になり、出勤できなくなった。
上司の身勝手な妄想
セクハラをする人間の多くは、身勝手な妄想を楽しんでいる。離婚をして独身になった智子には、「欲求不満に違いない」「声をかけられるのを待っている」「性的行為を強要しても、拒絶しながらも、心の奥底では喜ぶに違いない」などと、自分勝手な妄想をしているのだ。そうして脳の中で繰り返しイメージを展開して、行動に移す。彼らにとっては、セクハラ行為は自然の成り行きなのである。
こうしたセクハラ上司たちの人格は、自己愛傾向が強い。彼らは無意識に自分を特別な人間と思い込んでいる。また、他人を都合よく利用しても、まったく心が痛まない。仕事では能力が高い場合が多く、プライドも高い。しかし、プライドが傷つくと強い怒りが出て、怒り衝動はなかなか収まらない。彼らに1人で立ち向かうのは気をつけなければいけない。セクハラ行為について直接上司に抗議しようとすると、さまざまな問題が起きかねない。彼らは自分の行為を正当化し、事実を平気で歪曲してしまう。
また、身勝手な憎しみから、被害者に対してストーカーに変身する可能性もある。だから、専門家に相談し冷静に対処しなければならない。彼らには、なかなか常識が通用しないからだ。自分の人格がゆがんでいるという自覚もほとんどない。セクハラ行為をしたという自責感もないのだ。おそらく、被害者から誘ってきたなどと主張するだろう。彼らは事実をゆがめて、自分に都合よく解釈してしまうのだ。
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●河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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