同じことを考え、同じ方向に進もうする学生たち
長年、私は顧客企業における採用アセスメントで、グループ討議に取り組む大学生に向き合ってきました。その際、私は「良い評価を得るためにやるべきこと」や「やってはいけないこと」が、なぜか学生の間で見事に共有されていることに、ずっと違和感を抱いてきました。誰かに指示されたわけでもないのに、皆が同じことを考え、同じ方向に進もうする…。それが正しいことであれば素晴らしいのですが、残念ながらそうではないと思います。
まず、グループ討議に参加するほとんどの学生が、「発言量」が何よりも重要だと信じて疑いません。そして、まとめ役などに収まることができれば、更に高く評価されるだろうと考えています。企業が好んで採用の評価基準に挙げる「積極性」「主体性」「率先性」「リーダーシップ」などをアピールでき、「頭が良い」とみなされたりもするので、学生にとっての「やるべきこと」は、「とにかく他者に先駆けてたくさん発言し主導的に動くこと」に集約されるようです。
また、「発言者の方を向いて、うなづき相槌を打ちながら傾聴する」などの対人テクニックの披露に余念のない学生も少なくありません。「コミュニケーション能力が問われている」という意識が強いのでしょう。そんなことばかりに気を取られていたのでは、人の話など頭に入ってこないだろうと思うのですが…。
一方、多くの学生が、周囲とのバランスを崩すことを「最もやってはいけないこと」としてタブー視しています。「協調性を見られている」と強く思い込んでいる学生が、「強く主張してはいけない」「他者を否定してはいけない」などと心に決めて抑制的な言動に終始する様子を見るにつけ、許容性が低くなってしまった世の中を生きていかねばならない彼ら彼女たちが、少し気の毒になります。
影が薄くなってしまった「本当に大事なこと」
近年、顧客企業が新卒採用を見据えて実施する「インターンシップ」に呼んでいただき、学生たちと接する機会が増えました。そこでもグループ討議を実施するのですが、「どんなことを心がけて臨みましたか?」と学生に質問すると、誰もがここまで書いてきた例のどれかを答えてくれます。
このような注力自体が間違っているわけではありませんが、それを見せることへの執着が強くなり過ぎて、その行動が目的化されてしまうようになると、「本当に重要な取り組み」が疎かになります。これらの「常識やルール」を完璧に遂行した学生がいたとしても、たぶんその人が私たちの採用アセスメントを通過することはないでしょう。本当に大事な取り組みを選択できない人が、入社後に活躍できる可能性は極めて低いからです。
●文/奥山典昭(おくやま のりあき)
概念化能力開発研究所株式会社代表、組織再編支援コンサルタント、プロフェッショナルアセッサー
大学卒業後、商社での海外駐在、大手電機メーカー、人事系コンサルティング会社などを経て、1999年に概念化能力開発研究所株式会社を設立。人の能力や資質を数値化して客観的に適性を評価する人材アセスメントと、組織に必要な人物像を抽出する採用アセスメントを駆使し、企業の組織再編や採用活動を支援。現在、応募者の本質を見抜くノウハウを企業の経営者や採用担当者に伝える採用アセスメントの内製化支援に注力している。著書に『デキる部下だと期待したのになぜいつも裏切られるのか』(共著・ダイヤモンド社)、『間違いだらけの優秀な人材選び』(こう書房)、『採るべき人 採ってはいけない人』(秀和システム)、『採るべき人採ってはいけない人第2版』(秀和システム)
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