採用選考の常識や通念はアップデートされずに根付いているものが多く、合理性を伴わないものも少なくありません。既成概念から脱し、自社に必要な人を採用するための、新しい考え方や知識を解説します。(2024年1月16日)
見逃されやすい自己防衛行動
私たちが採用アセスメントのアセッサー(行動観察者)を新たに養成する際、最も時間をかけるのが「応募者の自己防衛行動を漏れなくキャッチする訓練」です。前コラムの第5回(「バックナンバー」にあります)でも述べましたが、応募者が採用選考時に見せる自己防衛行動は、入社後の「思考停止」や「悪質な問題行動」の前兆である可能性を否定できないので、見逃してもらっては困るからです。
自己防衛行動は不健全なパワーを伴うことが多く、それらに接する人は何らかの違和感や不快感を抱くことが多いので、比較的見逃されにくい行動群だと思います。しかし、中には例外もあり、その代表的なものが「強すぎる発信」でしょう。特に採用選考に取り組む経営者や採用関係者の多くに、この行動への感性が鈍くなりがちな傾向が見られます。
応募者の「強過ぎる発信」に対して寛容な人たち
採用アセスメントのグループ討議で、妙に声の大きい応募者に違和感を抱くことがよくあります。その人がもともと地声の大きい人である可能性を完全に否定することはできないのですが、どうしても自然な発信ではなく、声を張っているように感じるのです。採用選考の面接の場などでも、採用側が応募者の「不自然さを伴う強い発信」に触れる機会は、たくさんあるのではないでしょうか。
「自分を強く見せなければ」という強い自己執着に支配されている人が、自分の弱い部分が露呈するのを恐れて、無意識のうちに他者を自分から遠ざける自己防衛行動に走ります。その中でも、「強く話す」「声を張る」といった行動は、他者に圧をかけることで他者を遠ざけ、自分の身を守ろうとする野生動物の「威嚇」のようなものです。最も原始的でシンプルで、「さまざまな自己防衛行動への入り口」のような表出(心の内部が現れたもの)と言ってもよいでしょう。
強い自己顕示欲や承認欲求を映す高圧的な発声や、他者に話を差し込まれることを恐れて隙間を埋めていく「畳みかけ」などは、必ず非生産的な負のパワーを伝えます。不自然な強さを伴う発信を冷静にキャッチすれば、それなりに違和感や不快感を抱くことになるはずなのですが、多くの経営者や採用関係者がそこに寛容になりがちなのは、なぜなのでしょう。
●文/奥山典昭(おくやま のりあき)
概念化能力開発研究所株式会社代表、組織再編支援コンサルタント、プロフェッショナルアセッサー
大学卒業後、商社での海外駐在、大手電機メーカー、人事系コンサルティング会社などを経て、1999年に概念化能力開発研究所株式会社を設立。人の能力や資質を数値化して客観的に適性を評価する人材アセスメントと、組織に必要な人物像を抽出する採用アセスメントを駆使し、企業の組織再編や採用活動を支援。現在、応募者の本質を見抜くノウハウを企業の経営者や採用担当者に伝える採用アセスメントの内製化支援に注力している。著書に『デキる部下だと期待したのになぜいつも裏切られるのか』(共著・ダイヤモンド社)、『間違いだらけの優秀な人材選び』(こう書房)、『採るべき人 採ってはいけない人』(秀和システム)、『採るべき人採ってはいけない人第2版』(秀和システム)
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