「最近の若手は、自分で考えようとしない」
「一から十まで教えないと動いてくれない」
人事担当者とお話していると、こうした声を耳にすることがあります。もちろん、そのように感じる場面はあるでしょう。しかし、本当に若手社員は「考えなくなった」のでしょうか。
私の考えは少し違っていて、むしろ変わったのは、若手社員ではなく、上司に求められる役割なのではないかと感じています。その背景の一つにあるのが、生成AIの普及です。ChatGPTをはじめとする生成AIは、私たちの働き方を大きく変えました。
<生成AIにできること>
・分からない言葉があれば質問する
・メールの文章を考えてもらう
・議事録を要約してもらう
・企画のアイデアを出してもらう
少し前までは上司や先輩に聞いていたことの多くが、今ではAIが数秒で答えてくれる時代になりました。だからといって、「上司の存在価値がなくなる」という話ではありません。むしろ、AIにはできない役割こそが、これまで以上に重要になってきているのです。
「教えること」がゴールではなくなった
これまでの人材育成では、「仕事を覚えること」が一つの目標でした。
・仕事の進め方を教える
・ビジネスマナーを教える
・電話応対やメールの書き方を教える
上司や先輩から知識や経験を学び、一つひとつ仕事を覚えながら成長していく。それが育成の基本でした。もちろん、今でも仕事の基本を教えることは欠かせません。しかし、以前と決定的に違うのは、知識を得る方法です。
・分からないことがあれば検索する
・動画で学ぶ
・AIに質問する
知識そのものは、以前よりもはるかに手に入りやすくなりました。では、それだけで仕事はできるようになるのでしょうか。答えは「ノー」です。仕事には、正解が一つではない場面が数多くあります。
「この伝え方で相手はどう感じるだろう」
「この判断で本当にいいのだろうか」
「優先順位はこれで合っているのだろうか」
こうした迷いに対しては、AIが答えを示してくれたとしても、その答えが自分の職場や相手に本当に合っているかどうかまでは判断できません。だからこそ、これからの上司に求められるのは、「答えを教えること」だけではなく、「部下が自分で考えられるように支援すること」ではないでしょうか。
新入社員が不安に思っていること
今年、弊社の新入社員研修を受講した177名を対象にアンケートを実施しました。仕事を進めるうえで不安に感じていることとして最も多かったのは、「適切な言葉づかいで会話できるか」(72.3%)でした。続いて、「適切なビジネスマナーで対応できるか」(63.8%)、「電話の受け方・かけ方」(63.3%)、「上司や先輩、お客様とのコミュニケーション」(55.4%)という結果でした。
私はこの結果を見て、とても興味深く感じました。というのも、これらはすべて、調べようと思えば簡単に情報が手に入るものだからです。
・敬語の使い方は検索できます
・電話応対の基本も動画で学べます
・メールの例文も、AIに相談すればすぐに提案してくれます
それでも、新入社員の不安はなくなりません。
なぜでしょうか。
それは、彼らが不安を感じているのは「知らないこと」ではなく、「自分の判断に自信が持てないこと」だからです。同じ敬語でも、相手や状況によって受け取られ方は変わります。電話応対も、マニュアルどおりに話せばよいわけではありません。相手の表情や声のトーン、その場の状況を踏まえながら判断する力が求められます。
つまり、新入社員が求めているのは、知識を増やすことだけではなく、「これで大丈夫だよ」と背中を押してくれる存在なのではないでしょうか。その役割を担えるのが、上司や先輩です。だからこそ、これからの育成では、「教える」だけで終わるのではなく、「対話する」ことがますます重要になってくると思います。
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●文/林原菜美(はやしはら なみ)
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部キャリア開発支援チーム 人材育成・研修プランナー
大学卒業後、航空会社にて地上係員として航空保安・お客様対応に従事し、社内教育・指導を務める。その後株式会社アイデムに入社。西日本事業本部にて、企業・商業施設の研修企画を行い、お客様が抱える課題に向き合っている。