第46回「職場をゴミ屋敷にする男」
職場のメンタルヘルスに関する事例・対策などについて、専門家が解説します。
ゴミ屋敷とは、家全体や部屋がゴミで埋まっている住居のことである。近年、マスコミで取り上げられるなど、社会問題の1つとなっている。今回は職場をゴミ屋敷のようにしてしまった男性の事例を紹介する。
会議室を仕事場にする
謙次は、いつも会議室で仕事をしていた。誰かが来客との打ち合わせで会議室を使うことになると、その間、彼は部屋を出る。出るとき、最初は荷物を片付けていたが、だんだん置きっぱなしにするようになった。
そもそも謙次が会議室で仕事をするようになったのは、自分の机ではできなくなったからだ。彼の机の上は書類やワイシャツなどの洋服でいっぱいになり、キャビネットも閉まらなくなった。とても仕事ができる状態ではなかった。
机の引き出しには食べかけの菓子袋や弁当の容器などが突っ込まれ、何も入らない。机の下に置いてあるダンボールには、汚れた靴下や下着も入っており、夏は異臭がする始末だった。
転職を繰り返す
謙次は整理整頓が苦手だった。彼に「こないだの書類はどこにありますか?」などと聞いても、何日かかっても出てこない。なので、謙次は過去のことを聞かれても、対応できなかった。
以前、謙次の性質をよく知らない上司が「先週の仕事の件だが、どうなっている?」と聞くと、謙次は「分かりません」と答え、大げんかになったことがあった。職場の人たちは、彼に翻弄されてきた。いろんな問題が起こるので、謙次は今まで転職を繰り返してきた。
職場の迷惑と困惑
謙次は、気分次第で入浴をする。だから入浴をしないときが続くと、全身から異臭がする。夏など周囲の人間はたまったものではない。また、机の中やダンボールにためたゴミからも異臭が出る。周囲の人間にとっては迷惑だ。
歴代の上司たちは、謙次に対する管理能力が問われてきた。周囲の人間が彼に掃除をするように促したり、彼の机を片付けたりしたが、すぐに同じ状態に戻ってしまった。
彼はADHD(注意欠如多動性障害)の傾向にあった。ADHDとは、多動性・衝動性と注意力の障害を特徴とする行動の障害である。
<メンタルヘルス豆知識>
ADHDには、気分にむらがある、整理整頓ができない、衝動的などの数多くの症状や問題がある。一方、興味のあることにはとことん熱中する、豊かな創造性を持っている、一度に複数のことを効果的に行うことができる、などの才能や能力があるといわれている。
しかし残念なことに、彼らの性質に合った仕事につけることはほとんどない。彼らは、与えられた職務をやりとげることができずに叱責され、うつ病になり退社。あるいは職場の人間関係で精神的なストレスにさらされ、不適応な状態になってしまう。
ADHDは遺伝的な要素も多く、生物学的な要因によって起こるとされている。脳内のドーパミンという物質の濃度が低いということも分かり、薬剤によってある程度改善できるようだ。
謙次にはADHDを専門とする精神科医の診断、治療が必要である。適切な治療を受け、才能が伸びるような職場環境であれば、天才的な能力を発揮して会社の未来に大きく貢献できる人材になる可能性もある。
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●河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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