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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

コアタイムなしフレックスの留意点〜N社事件(東京地裁H11.12.15、労経速1759号3頁)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2025年9月24日)

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【事案の概要】
 本件は、被告会社に雇用されていた原告が解雇の効力を争い、地位確認等を求めた事案です。解雇事由としては、後述のとおり業務遂行能力の点も問題とされていますが、本稿では主として出勤状況の点について、解説したいと思います。

 被告会社は、空調装置・冷凍機器用制御部品、超音波応用洗浄器、超音波応用溶着機、バイブレーションウェルダー(振動溶着機)等の製造、販売および輸出入を目的とする株式会社です。原告は被告会社の従業員でしたが、業務遂行能力の欠如、勤務成績・態度の不良を理由に解雇されました。





 被告会社は解雇事由について、次のように主張しました。

 原告は機械のシステムエンジニアとして採用されましたが、米国製機械を国産化するに当たり、原告が設計を担当した部分の失敗によって国産化が失敗しました。被告会社は、原告の技術を向上させるため、上司による現場指導・教育訓練を行いましたが、原告には向上努力の意思がなく、システムエンジニアとしての能力は向上しませんでした。
 そのため、被告会社は原告の担当業務をアプリケーションエンジニアに変更しましたが、原告はその技術・能力も不足していました。

 また、被告会社は、原告の出勤状況についても次のように主張しました。被告会社ではフレックスタイム制を導入しましたが、営業時間は午前9時から午後5時15分までと従前と変わっていません。そのため、組織として業務を適切に遂行する必要から従業員に対し、午前9時までに出勤しない場合は、出勤時刻を前もって会社に連絡するように指示していました。
 
 しかし、原告は、顧客と接触することを要するアプリケーションエンジニアでありながら、午前9時に出勤しない場合に出勤時刻を前もって会社に連絡することをほとんどしていませんでした。昼近くに出勤することも多く、上司・同僚に多大な迷惑をかけ、会社に業務上の損害を与えました。


【裁判所の判断】
 裁判所は、業務遂行能力の点について、原告にはシステムエンジニアとしても、アプリケーションエンジニアとしても、必要とされる業務遂行能力が不足していたと認定しました。また、勤務態度の不良についても、以下のように認定、判断し、結論として組織の一員としての自覚を欠いた不良のものと判示しました。

 裁判所はまず、原告の出勤状況について、上記の被告会社の主張のとおり認定しました。また、午前9時を過ぎると顧客や営業担当者から、原告あてにアプリケーション業務に関する種々の問い合わせ、依頼等の電話がかかってくることが少なくありませんでした。そのため、原告の出勤予定時刻が分からない上司や同僚が適切な対応をすることができず、顧客等にも多大な迷惑を及ぼすことがしばしば起こりました。

 ですが、原告は上司や同僚から何度も注意を受けても聞き入れず、同様の出勤態度を繰り返していたため、裁判所は解雇を有効としました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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