日雇い派遣禁止の現場対応〜派遣法改正〜
労働者派遣法の改正法が、2012年10月1日に施行となりました。中でも大きな変更が「日雇い派遣」の禁止です。そこで今回は、私が実際に見聞きした「当事者」の声を紹介しながら、これを考えてみたいと思います(アイデム人と仕事研究所 所長 平田未緒)。
社長に聞いた「日雇い派遣」活用のわけ
「日雇い派遣」を活用してきた業界のうち、最も大きな影響を受けるのは、物流業。そして、特に下請け仕事をする製造業だと思われます。日々、毎週、季節ごと、また予期せぬ突発事態により、仕事量が激しく増減するからです。
実際、ある部品組み立て工場の経営者は、「繁忙期に合わせた人員体制を敷くことは、経営上不可能です。といって、顧客企業の依頼に応えなければ、あっという間に同業他社に、仕事を奪われてしまいます」と話します。
物流企業の社長からは、こう聞きました。「お取引先からは明日の業務量を、前日の昼に指示されます。日雇い派遣なら、これを見てから派遣会社に、『明日、何人お願い』と電話すれば “人手”が確保できるのです。これに、どれだけ助けられたか分かりません」
製パンメーカーの工場長は、日雇い派遣は利用していなかったものの、「スーパーなどお客さま企業からは、当日に『何を何個納品してくれ』と言われます。これに応えるために、早朝から稼動したり、残業になったり。余剰生産も到し方なく、どれだけロス出ているか」とこぼし、こうした直前の出荷指示には頭を抱えていました。
要するに「日雇い派遣」は、労働力を究極まで変動費化する手段として、機能していたわけです。あらゆるものを、安く、早く、便利に手に入れられる、今の私たちの快適な生活を、支えてくれていたと言えるでしょう。
日雇い派遣禁止の真の理由
その「日雇い派遣」が、法律で禁じられるほど問題視されたのは、なぜなのでしょうか。
厚生労働省はホームページで、「派遣会社・派遣先のそれぞれで雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の発生の原因にもなっていた」ことを、禁止の理由にあげています。
こうした面も、確かにあったろうと思います。
半面、今回の改正では、「ソフトウェア開発」や「受付案内」など、政令で定める一部業務は禁止の対象外。かつ「60歳以上の人」「雇用保険の適用を受けない学生」「生業収入が500万円以上あり、副業として日雇派遣に従事する人」「世帯収入が500万円以上ある、主たる生計者でない人」も同様に対象外となっています。こうした人に対しては、雇用管理責任を果たさなくてよい? そんなわけはありません。
要するに、禁止の理由は他にあるのです。それは、日雇い派遣が「不安定」「低賃金」労働の最たるものであり、あえてきつい表現をすれば、“生計にゆとりがなく日雇い派遣で食いつなぐしかない人を『モノ』のように扱う一部状況”を法律で一掃するため、だったと言えるだろうと思います。
もちろん、日雇い派遣に関わる人も、人を「モノ」扱いしたいなどとは、思っていなかったことでしょう。しかし、日雇い派遣というサービスのあり方に、ヒトを“人”と思いづらい状況を作り出す側面があったことも確かでしょう。問題は、ここにこそ、あったのだと思います。
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●文/平田未緒(ひらた・みお)
株式会社アイデム人と仕事研究所 所長。早稲田大学卒業後、情報誌記者・編集者として勤務。その後1996年に総合求人広告企業株式会社アイデムに入社、CS、ES、人事制度、マネジメント、能力開発、パート・アルバイトの戦力化などをテーマに、数多くの企業ならびに働く人を取材。2009年より現職。大学講師、社会保障審議会委員等各種公的委員会・研究会の委員も務める。著書に『パート・アルバイトの活かし方・育て方〜相思相愛を実現する10ステップマネジメント〜』(PHP研究所)等があるほか、各種専門誌に執筆、ならびに講演も多数。
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