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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

就業規則に定めるだけで残業トラブルは防げない〜S社事件(大阪地裁平成18.10.6判決)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2022年11月22日)

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【事案の概要】
 被告が経営するホテルに勤務していた従業員8名が、時間外勤務による未払いの割増賃金の支払いを求めて提訴した事案です。

 

 被告の会社の就業規則には「従業員が時間外勤務を行う場合には、原則として所属長に事前の承認を得なければならない」との規定がありました。被告は、実際に労働実態もないのに、単に退社時刻やタイムカードの打刻時刻のみから時間外手当が請求されることを防ぐため、事前に「所属長の承認を得て、就労した場合の就業のみを時間外として認める」ことにしていました。そのため、原告らが時間外手当を請求できるのは、「事前に所属長が承認した部分に限られる」と主張しました。

 

 このような被告の主張に対する裁判所の判断は次のとおりです。

 

 

 

 

【裁判所の判断】
 裁判所は、就業規則の規定が存在することは認められるが、この規定は「不当な時間外手当の支払いがされないようにするための工夫を定めたものにすぎない」と判示しました。また、業務命令に基づいて実際に時間外労働がされたことが認められる場合であっても、事前の承認が行われていないときには「時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されない」としています。

 

 その上で、本件では「業務命令に基づく労働があった」と認められるとし、被告の主張を認めませんでした(なお、「時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定」と解される場合は、そのような規定は「合理性がない」として効力が認められないと思います)。

 

【解説】
 厚生労働省の定めたガイドライン(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)によると、「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」とされています。このように使用者の指示は「黙示でも良い」とされています。また、労働時間に当たるかどうかは「客観的に決まる」ので、使用者が労働時間の定義について就業規則等で定めたとしても、そのとおりに認められるわけではありません。

 

 

>>>次ページにつづく

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につづく

 


●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/

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