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ココロの座標/河田俊男

第102回「ゲーム障害」

人の心が引き起こすさまざまなトラブルを取り上げ、その背景や解決方法、予防策などを探ります。(2024年9月17日)

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 誰でも子供のころ、遊びに夢中になったことがあるだろう。興奮して大声を出したり、叫んだりして楽しむ。それを大人になっても体験できるのは幸せなことかもしれないが、警察沙汰になったら目も当てられない。


ゲームに夢中で大声を出す

 48歳の康雄はディスカウントショップの店長をしていたが、店が倒産して失業した。康雄の趣味はオンラインゲームで、仕事をしていたときから楽しんでいた。失業してからは毎日のように遊ぶようになり、ゲーム中に「なんだ! ずるいじゃねぇ〜か!」「バカヤロー、やりやがったな〜!」などと大声を出したり、叫ぶようになった。本人はヘッドホンをしてプレイしているので、大声を出しているという意識はなかった。

 ある日、警察官が自宅にやってきた。近所で康雄の大声がクレームになり、注意をしにきたのだ。しかし、彼は警察から注意を受けてもゲームをやめなかった。たまりかねた妻からゲームをやめるように言われると、彼は妻を殴った。身の危険を感じた妻は家を出て行き、離婚することになった。妻は以前から康雄に暴力を振るわれ、我慢の限界だった。





ゲームに没頭するために仕事をする

 45歳の貴之は臨床工学技士で、以前はサイクリングを趣味にしていた。だが、知人にすすめられたオンラインゲームにハマり、夢中になった。仕事は病院で人口透析器や人工呼吸器などのメンテナンスをすることだが、ゲームをすることが生活の中心になった。やがてそれはエスカレートし、仕事をしてお金がたまると退職してゲームに没頭するようになった。そして、お金がなくなったら仕事をし、たまったら辞めてゲームに集中するのだ。

 貴之は結婚していたが、ゲーム三昧の生活に耐えきれなくなった妻から離婚を切り出された。住んでいるマンションは妻の所有なので、貴之が家を出ることになった。


なぜ夢中になるのか?

 康雄は、現実の社会では自分の存在を認められず、何かを達成することもなかった。そのため、ゲームから達成感や満足感を得ようとした。貴之も職場でモラル・ハラスメントを受け、現実では得られない安らぎをゲームに求めた。それがゲームに夢中になった理由で、やがて彼らは薬物に依存するようにゲームに依存するようになった。

 ゲームはプレイヤーが楽しめるように作られている。だが、ただ楽しいだけでなく、ほどよい緊張感が与えられる。それは面白さを感じてもらうための仕掛けだ。状況を打開するための方法を考えなければならないが、最終的には切り抜けられるように設計されている。プレイヤーは自ら考え、ゲームをクリアする。こんなに楽しいことはない。プレイヤーの脳にはドーパミンが分泌され、快感という報酬が与えられる。人間の本能的な欲求が満たされるので、一度のめり込むと抜け出せなくなるのだ。


<ストレス心理コンサルティング>
 ゲームに夢中になりすぎると社会的な孤立を深め、重い精神疾患になる可能性がある。病気診断の世界標準であるICD-11※に、ゲーム障害がある。診断基準として、以下のような条件が定められている。

※世界保健機関(WHO)が作成している病気の分類のこと。分類された病気は、名称とアルファベットと数字を用いたコードで表される。

1.ゲームに対して自制心がない
2.他の生活上の興味や日常生活よりも、ゲームを優先する
3.ゲームによって悪い結果があっても、ゲームを続け、エスカレートする
4.上記3つの条件が持続的、反復的に行われ、1年以上続いている

 
康雄と貴之は条件をほぼ満たしている。一般的には、ゲーム障害によって就労が困難になり、家族と離別して社会的に孤立し、深刻な精神状態に陥ることになる。康雄は警察沙汰にもなっただけでなく、ゲームの課金にお金が必要だったので食費を抑えたり、電気もなるべく使わないようにして節約していた。貴之も仕事でお金を稼ぎ、ある程度たまったら仕事をやめてゲームに没頭していた。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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