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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

どこまで? 障がい者雇用の合理的配慮〜M社事件(大阪地判令7.3.26)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年7月21日)

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【事案の概要】
 本件は、聴覚障がい(両耳全ろう)を有し、障がい者雇用枠で被告に採用された原告が、在職中に「必要な合理的配慮を受けられなかった」として、被告会社に合理的配慮提供義務違反に基づく損害賠償等の合計約410万円の支払いを求めた事案です。

 原告は一般職として勤務していましたが、会議・研修・朝礼等で発言を文字化する筆記サポート(要約筆記や音声を文字に変換するアプリ「UDトーク」)を常時提供されなかったことが合理的配慮提供義務違反に当たり、これが原因でうつ病を発症し、休職したと主張しました。本件の争点は、被告会社に「合理的配慮提供義務違反があるか否か」です。





【裁判所の判断】
 裁判所は、合理的配慮提供義務違反を否定し、原告の請求を棄却しました。

(1)判断枠組み
 裁判所は、障害者雇用促進法36条の3の合理的配慮提供義務は公法上の義務であり、同規定から直ちに「労働者の請求権が生じるものではない」としました。また、使用者は信義則(労働契約法3条4項)に基づき、労働者の意向を踏まえ、過重な負担にならない範囲で、均等な機会・待遇の確保や能力発揮の支障となる事情を避けるために必要な措置を講じる義務を負い、これに違反すれば「労働契約上の債務不履行となる」と判示しました。なお、合理的配慮は個別性が高く、基本的には「労使間の調整により決まるもの」とされました。

(2)筆記サポートについて
 原告は各種会合で常時の筆記サポートを求めましたが、裁判所は、必要な措置は会合の目的や音声以外の情報提供の状況を踏まえて判断すべきであるとし、資料の事前配布や議事録・ノートの共有等で情報が伝わっていれば足り、「常時すべてを文字化する義務はない」としました。また、「どのような体制で配慮するか」には使用者に一定の裁量があり、原告の希望する分担体制どおりでなくても「直ちに義務違反ではない」とし、外部通訳者の派遣や放送の文字化設備も「必要な措置には当たらない」としました。

(3)結論
 以上より、裁判所は、合理的配慮提供義務違反を認めず、原告の請求を棄却しました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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